企画
□いつかはこない
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「馬鹿じゃん。」
「ほんとだよなー」
朝日がカーテンの隙間から漏れだし、静かで、そして落ち着いた空気が流れる。
泣き出しそうな顔をした少年と愛しくて、でも手に入れることを諦めた顔の青年がふたり、手をつないで静かに寄り添っている。
「なあ、少年よ。青年の俺と約束をしないか?」
「やだ。」
「えー!そんなこと言わんといてーなあなあー」
膝に顔をうずめて、まるで大好きなおもちゃを取り上げられたら子供のようにふてくされて言う。
そんな少年に笑いながら言う青年。
「お願い。ね、最後にするから。」
「…ゃだ。」
小さな声と小さなすすり泣きの声が聞こえはじめる。
「一つ目!ででーん!毎日笑うこと!」
「…っ!やだっていっ――」
「二つ目!ばばーん!勉強しろ!全国一位くらいとれ!」
「ばっかじゃねぇの!?」
泣いて、ぐちゃぐちゃになって、かっこもつかないようなひどい顔をあげる。
そんな顔をみて、くすくす笑いながら頬をゆっくりと撫でる。
壊れ物を扱うかのように静かに、優しく。そして、愛おしく。
「三つ目!これが一番大切だ。分かったかな、少年よ。」
「…やだ。やだ。」
ふるふると頭を横に振る。
「聞いて。お願い。大丈夫だから。」
「……ひっく…ひっく…」
次々と流れ出す涙を拭う。
「お願い。」
「…わかっ…た…よぉ…」
「ん、ありがと。」
優しく抱きしめ、耳元で言う。
「三つ目――――生きろ。生きて、生きて、生き続けろ。
この先、辛い事なんて馬鹿みたいにある。
嫌すぎて引きこもりたくもなる。
でも、生きろ。足掻き続けろ。格好悪くてもいい。足掻け。戦い続けろ。
いつかはいない。だから、生きろ。」
「…っ…ふぅ…」
抱きしめる力を強くする。離さないといわんばかりに。
しばらくして、ふっと力が無くなる。
「あーやばい。そろそろ行かなきゃな。」
抱きしめていた手をほどき、徐々に透き通り始めた手を眺める。
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