とある狐の物語

□06-蛹化と羽化
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=仔狐と犬の関係=



慰霊祭の夜から揃って姿を消していたエリート上忍と里の忌み嫌われ者の子供。

その二人の姿が再び里内で目撃されたのは、慰霊祭から約一週間後。秋祭りの前日の事だった。

エリート上忍が里の忌み嫌われ者の子供――『化け狐』の監視をしている事は公の秘密だった為、里人達は双方の間で何らかの問題が発生したものと勘ぐっていた。

しかしその二人が再び里内に揃って姿を現した事で、その可能性は打ち消され落胆した。

多くの里人達は、慰霊祭を機に化け狐が里から居なくなる事を望んでいたのだ。

この里の里人達はいまだ、『化け狐』の――『人柱力』の存在意義を理解してはいなかった。

だから『そんな』事を望むのだ。

この里と里人達は、十四年前から何も変わっていない。
寧ろ思考は退化していると言っても過言ではないだろう。

そう、改めて自里の事を分析しながら、俺はカカシと二人顔を突き合わせながら里の大通りの店先で注文した団子を待っていた。

目の前が大通りな上に、この店は外観部分にも席があるので、そこに座っていれば嫌でも街行く里人達の目に俺達の姿が映る。視線が集中する。

俺がこんな所で、カカシと仲良く団子を注文し待っているのは他でもない。変な勘ぐりをしている里人達に、俺達の『無事』を知らしめる為である。

だから俺は『うずまきナルト』を演じなければならないし、カカシは『上忍師』と言う立場を演じなければならないのだが……。

先程から俺の顔を見つめては、だらしなく顔をニヤけさせているカカシが鬱陶しくて堪らない。


(……窶れた顔でニヤけてるなんて、完全に変態じゃねーかよ)


パックンが一緒でなければ、とてもじゃないが耐えられない。

俺は膝の上のパックンを撫でながら、心の中でグチグチと不満を零していた。

ちなみにあの後、俺が過去で結んだ『口寄せ・二重契約』を破棄しようとしたら、パックンに暫くはこのまま契約を継続したいと言われ、そのままになっている。

パックン曰く、カカシの事で困った事があったら遠慮なく呼び出せと言う事らしい。


「そう言えば明日は秋祭りだけど、ナルトはどうするの?誰かともう約束してたりするの?」

「うーうん。別に誰とも約束してないってばよ。でも多分祭りには行かないと思うってばよ?」

「何で?約束してないなら、先生と一緒に行かない?色々奢ってあげるよ?」

「暫く部屋を開けてたから、部屋の掃除とかしなくちゃいけないんだってばよ。俺ってばカカシ先生と違って、家事をしてくれる女の人なんて居ないから」

「……否、俺もそんな人は、居ないよ(いまは)」

「えぇー、こないだまで付き合ってた『あの姉ちゃん』は?」


俺が敢えて『あの女』の事を話題に振ってやれば、面白い程カカシは狼狽え青ざめていた。


「か、彼女とは、そーゆーんじゃ……ないよ?って言うか、ナルト、彼女が現在(いま)どうしてるのか……知ってる、よね?」

「知ってるけど、カカシ先生には他にもそーゆー女の人が『一杯』居るのも知ってるってばよ?明日もその中の誰かと約束してるんじゃないかってばよ?(ニッコリ)」

「…………色々と、ご免なさい」


自身の女癖の悪さを指摘され、カカシは両手を机に突いて、必死に謝罪してきたが、正直カカシの女癖なんて悪くても良くても俺には関係ない。興味がない。

けれど、あの真面目で誠実だった『カァシ』がこうも真逆に成長するとは……時の流れとは摩訶不思議なものである。


(……カァシは、どっちかって言うと女に興味なさそうだったんだけどなぁ。リンの気持ちにも、気付いてなかったみたいだし)


俺は運ばれて来た団子をパックンに食べさせ自分の分を空にすると、頭を下げ続けているカカシを残して席を立った。


「うんじゃー俺はもう行くってばよ、カカシ先生。ご馳走様だってばよ」

「え!?ナルト、何処行くの!?」

「何処って、綱手のばっちゃんからの頼まれ事とか、書類の提出とか、色々だってばよ(あち此方顔を出さなきゃなんねーだよ!!俺は)

「ナルトが行くなら俺も……」

「別にカカシ先生はそのままゆっくりしてれば良いてばよ?(此処からは別行動だ)カカシ先生は特に用事もないんだろう?(お前も単独で里人達にその姿を晒して来い!!)」

「……あ、うん。そうだね。俺はもう少しゆっくりして、から行くよ。ナルトと一緒に居たかったけど……(ご免なさい。ナルトの指示に従います)」


ほっといたらそのまま一日中付き纏われそうだったので、俺は笑顔で釘を刺しつつ軽くカカシを威圧した。

カカシとは別に監視も付いているのだから、何も俺達がずっと一緒に居る必要は無いし、ナルト(俺)とカカシの行動範囲は基本重ならない。幾ら同じ班に属しているとは言え、下忍と上忍なのだから当たり前だ。
態々人目に付く場所を選んで団子を食っていたが目的から行けば、二手に別れた方がどう考えても効率が良い。

俺はさして急用でも何でもない指示書を数枚手にすると、同期達の任務現場へと向かった。

そこで担当上忍師達にこの指示書を手渡しがてら適当に雑談をし、後は商店街でカップラーメンでも買ってアパートの部屋へと帰れば完璧だろう。


(……夜は夜で、彼奴等(零班)の相手もしないとならないからなぁ)


都合の付く奴等だけでも飯に連れてってやるか――と、帰還した自分を出迎えた時の仲間達の姿を思い返し、俺は小さく口角を上げて笑った。

その日、急な単独任務で里外に行っていた『畑カカシ』が里に帰還したが、やたらと窶れていたのは、帰還早々化け狐に出くわし団子を集られたからだという噂が里内に流れた。

が、団子を集られただけで窶れるとは一体どんな集られ方をしたのかと、里人達の興味はあらぬ方向に掻き立てられたとかなんとか。

そんな報告を受けながら、俺は飯屋の個室で上げ膳据え膳でテンゾウ達に世話を焼かれていた。

幾ら『暫くは好きに甘やかさせろ』と言われていても、これではどちらが労っているのか分からないのではないだろうか?

俺は心の中で小首を傾げながらも、おとなしくされるがままになっていた。

カカシが窶れていた本当の理由も、一人里を歩くカカシが気落ちしていた理由も、知っているのはほんの極僅か。白狐達と一部の関係者だけ。

だから、元暗部のエリート上忍・畑カカシ(二十六歳)が、本日付で『火影(四代目)の駄犬』改『白狐(ナルト)の下僕』になった事を知っているのも、彼等だけである。


(……下僕になっても、カカシが駄犬である事は変わりないんだけど、な)


仔狐と犬の関係に、小さく大きな変化が起きていたその影で、黒い子供は一人闇へと落ちて行く。
人知れず、心を黒く黒く染めて行く。

求めた光りに群がる者が増えれば増えるだけ、その速度は加速して行く。

黒い子供は暗闇の中で、自分で自分を見失て行く――……。



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2015/12/18 up
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