とある狐の物語

□04-岐路と選択・番外編
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=頭首と紅い眼差し= *ヒアシ視点



ハナビと共にヒナタの病室に顔を出してから屋敷に戻った自分は部屋で一人、今日あった出来事を思い返していた。

残念な結果となってしまった予選から三日。
ヒナタの幽閉を止める妙案も浮かばず、屋敷の中で沈んだ気持ちで過ごしていた自分の元へ、一匹の蝦蟇が訪ねてきた。

木ノ葉の里で蝦蟇を口寄せできる人間は限られている。と言うか、現在公になっているのは伝説の三忍である自来也だけである。

だからてっきり自来也からの内密の知らせかと思ったのだが、自来也の名にその蝦蟇は首を横に振り、ただ『ハナビを連れてネジを訪ねろ』としか言わなかった。

不思議に思いつつも、どのみちネジとは話をしなければならなかったので、大人しくその蝦蟇の指示に従った。

玄関先で自分達を出迎えたネジは、何時になく不機嫌で拒絶の色が強かった。無理もない対応に、どうしたものかと思案していると、先に訪れていた『炎』と言う子供に促され、ネジは我々を渋々屋敷の中へと招き入れてくれた。

ネジに来客中だと言われ気配を探らなければ分からない程に薄い気配は、決して普通の子供の気配ではなかった。

木ノ葉の里の中では珍しい紅い色をした子供。
前髪を長く伸ばしているせいで素顔はハッキリと確認する事はできないが、その色と似た名から紅炎の姿が重なって見えた。

が、直ぐにそんな事は無いと思い直した。

ネジの話が嘘でないのならば、この炎と言う子供は数年前にたまたま行き倒れているところをネジが助けてやった子供で、親兄弟は居ないと聞いている。


(忍をしている養親は居るらしいが……他人の空似だろう)


話に聞くだけで直接会った事の無かった不思議な子供に頭首として、またネジの保護者として、色々と聞きたい事はあったが、いままで何も問わずに居た。

素性は分からぬが、精神的に傷付き荒れているネジを気遣い寄り添ってくれるている歳近い者。
一族の者のみならず、同期の者達とも一歩引いた付き合いをしているネジが珍しく心許している相手を詮索する事は、余計にネジの心を頑なにしてしまうから。

そして通された居間に用意されていた人数分のお茶を見た時、蝦蟇を使い自分達を呼び付けたのが誰であったのかを理解した。

心身共に疲れているネジの為にと淹れられた疲労回復に効果があると言うお茶。
勧められるがままに口を付ければ、たった一口で身体が軽くなり、気持ちが落ち着いて行くような気がした。
いや、実際そうだったのだろう。

後で聞いた話に拠ると、あのお茶は炎が自分で調合した特別製で一般には出回っていないと言う。

あの年頃で明確な『目的』を持って調合されたお茶。
一体どれだけの知識と技術を持ち併せているのか……また、『誰』に『何時』それ等を習ったのか、謎は深まるばかりだった。

そもそも自白効果のある材料等、値も張るし簡単に入手できるものではない。
なのに炎の自宅にはそれ等が当たり前のように保管されていて、必要に応じてその都度調合していると言うから驚くばかりだ。

それに――……。

少し言葉を交わしただけで、炎が忍の諸事情に詳しいのが分かったが、何故アカデミーに通ってもいない子供がそこまで忍の事情に詳しいのか……。
養い親が忍であるのならばある程度忍の事情に詳しくてもなんら不思議な事ではないのだが、炎の場合はそう言う次元での詳しさではなかった。下手をしたら一般の忍では知り得ない情報迄知っていたのだから。
そもそも一般のただの子供ならば、口寄せ獣を呼び出す事も使役する事もできない。

だから炎は、忍またはそれに準ずる者である筈なのだが……。

心閉ざし諦めさえ滲ませていたネジを諫め、自分と話をするよう促してくれた炎。

父上の考えに染まり、父上の望む受け答えしかできなくなっていたハナビに、自ら考え意見する事を説いた炎。

炎が間に立つ事によって、自分達は相手の懐に向かって一歩踏み出す事ができた。

今日の出来事が炎自身に拠るものなのか、炎の養親に拠るものなのかは分からないが、確かに自分達は第三者の明確な意志によって現状を脱した。

残る問題はまだあるが、前向きな気持でそれに立ち向かう事ができるようになった。


「――父上、少し宜しいですか?」


いい加減休もうかと灯りに手を伸ばした時。
普段ならばとうに休んでいるハナビが人目を忍んで声を掛けてきた。

要件はヒナタの事かと思ったがそうではなく、炎の事が気になるのだとハナビは言った。


「父上、炎は本当に忍ではないのですか?ネジ兄様も炎もただの子供だと――『一般人』だと言っていましたが、幾ら何でもそれはありえないのでは?」


もっともな疑問だと思った。


「わたしはあんなにも気配の薄い一般人を知りません。忍でも普段からあそこまで気配を消している者はそうは居ません。第一に、炎はわたしが日向家の次期頭首だと知っていました。表向きはまだヒナタ姉様が次期頭首なのに……ネジ兄ように聞いたのかとも思いましたが、ネジ兄様も多少の愚痴や不満を炎に漏らしていただけで詳しくは伝えていないと……ならば炎は何処からその情報を得たのでしょうか?」

「確かに情報の出どころは気にはなるが……追求したところで答えてはくれまい」

「では、聞かなかった事にするのですか?」

「……いまはそうするしかあるまいな。親しくしているネジにさえ、炎は自分の事はあまり語らないらしいからな」

「父上はそれで宜しいのですか?」

「気にはなるが、いまは炎の事よりもヒナタの事を優先しなければならないからな」

「それはそうですけど……わたしは何だか悔しいです」

「悔しい?」

「本気でなかったとは言え、炎にはわたしの体術が全く通じなかったんです。炎が忍ならば、堂々と手合を申し込めるのに……」


蝦蟇を使役していたから口寄せ以外の忍術も多少使えるだろうとは思っていたが、体術も優れていたとは……本当にどう言った素性の者なのだろうか?

垣間見える忍としての才能は決して凡人ではない。
にも関わらず、表に出て来る気配の無い炎。

そう言えば、炎は『あの花』の咲く場所に自由に出入りできる身の上だったなと、初めてネジから炎の話を聞いた時の事を思い出した。

もしも炎が『あの者』の子供ならば、全てが納得できるが……そうなると、人柱力である『うずまきナルト』の素性が分からなくなる。
三代目が言うように、本当にうずまきナルトはあの者とは何の関係も無い子供なのだろうか?たまたま適正があっただけの。
確かに見た目はあの者とは全く違うが……。


「父上?」


急に黙り込んだ自分を、ハナビが心配そうに見上げていた。


「……何でもない。炎の事は落ち着いてから考えるとしよう。ネジも暫くは中忍試験の事で忙しいから、それまで誰か他の者に相手をしてもらいなさい」

「……はい。分かりました」

「さぁもう遅い。明日の修行に差し支える前に休みなさい。お祖父ように今日の事が気取られたら元も子もない」

「……!!」


そう言い聞かせると、ハナビはハッとしたような顔をして大人しく私室へと戻って行った。

情報漏洩の可能性も含めて、本来ならば早急に炎の素性を洗い出すべきなのだろうが……暫くはそっとしておいてやりたかった。

変に騒ぎ立て、炎との交流が絶たれ悲しむネジを見たくはなかったから。

子供達に危害が及ぶようならば話は別だが、まずその心配はないだろうとヒアシは首を振った。

炎のネジを気遣う眼差しに、嘘偽りは感じられなかったから。



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2015/06/26 up
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