とある狐の物語

□04-岐路と選択
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「――と言う理由で、なるべく早い内に関係者を招集してもらいたんだけど、良いかな?爺ちゃん」


それぞれ立場や任務が有る為、全員の都合が着いたのはそれから三日後の事だった。

火影邸の一室に招集された関係者達は、部屋に入るなりその顔触れにただ事ではないと気を引き締め三代目の入室を待った。


「上忍だから呼び出された……って訳じゃなさそうね。ねぇアスマ、貴方何か三代目から聞いてないの?」

「いや、だが呼び出されたのが俺達だけだとすると、俺達の担当する下忍――旧家・名家の跡取り達に関する事と見て間違いないだろうな」


『確かに』と、アスマの言葉に室内を見渡した紅は納得する。里の一大事ならば、特別上忍等他の者にも招集が掛かるだろうし、純粋に担当下忍に関する事ならば自分達上忍師だけの招集になるだろう。

けれど自分達特定の上忍師とその担当下忍の保護者――旧家・名家の頭首――が揃って招集されたとなると、その用件は限られてくる。

程なくして三代目付きの暗部が三代目の入室を告げ、開かれた扉の向こうから、見慣れぬ暗部を引き連れた三代目が姿を現した。
その暗部の姿を目にした瞬間、それまでガイと戯れ合っていたカカシは叫ぶようにその名を呼んだ。


「紅炎!!」


驚きつつも、喜び弾むカカシの声と、見慣れぬ暗部のしていた暗部面に驚く一部の者達。彼等を置き去りに、カカシは駆け寄りその暗部の肩を掴もうと腕を伸ばした。

けれどその腕が届く前に、その暗部――紅炎の姿は煙となって消え失せた。


「え!?影分身!」

「っちょ、カカシ!アンタの知り合いなの!?いまの暗部が着けていた面って、『狐』?」

「狐の面って事は『零番隊』かぁ」

「うん。そうだよ〜♪」

「でも零番隊は滅多な事じゃ表に出て来ないんじゃ……」

「確かになそう言われてはいるが、必ずしもそうとも限らねぇだろうよ、紅」


三代目はそんなカカシと周囲のざわめきを無視して足を進めると、上座に置かれていた椅子に腰を掛けた。

するとその背後に再び紅炎の姿が現れ、注目が一点に集中すると共に室内は一気に静まり返った。

そして三代目火影――爺ちゃんは煙管を咥えたまま言葉を紡ぐ。里長として。


「――……お主らに集まって貰ったのは他でもない。今年度木ノ葉の里にて開催される中忍試験に関してなのだが……詳しい話はこちらの暗部から直接聞いた方が早いじゃろう」


けれどその言葉は短く、重要な部分は俺に丸投げされた。

一見お座なりにも見えるその振る舞いは、名指しされた暗部――紅炎(俺)が、それだけ火影の信頼を得ていると言う証し。

俺は持っていた資料を影分身に配らせ、簡単に自己紹介をすると、今回の中忍試験受験候補者達の現状を告げた。

線の細い、年若い暗部。見慣れぬ面は、里の禁忌である狐の絵柄。
その存在を知らされていても、俄に信じがたい特殊部隊の所属。

紅炎(俺)と面識の無い者達の戸惑いと疑惑の視線は最もだと思う。

だが、相手がどう思っていようが関係無い。俺は俺のすべき事をするだけだ。


「――……貴方達は一体現在(いま)まで何をしていたんですか?今回の中忍試験に彼等を出す事は、何年も前から決まっていた事です。それなのに、試験まで一ヶ月を切った現時点で、誰一人として試験の合格ラインに達している者が居ない……他里と合同で行われる昇級試験がどう言った意味合いを持っているのか、ご存知ですよね?」


思っていたよりも子供達が育っていなかった事に青ざめる頭首陣と、ばつが悪そうに視線を逸らす担当上忍師達。


「このままでは今回の合格者はゼロ。里の弱体化を自ら公言する様なものです。それが里にとってどう言う結果を招く事になるのか――……言わなくても分かりますよね?皆さん里を代表する忍の方々なのですから」


言葉も無く棒立ちになる一同を端から順に眺め、最後に爺ちゃんを見やれば、渋い顔でひたすら目の前の空気を睨んでいた。


「子供達の苦手な分野や強化しなければならない箇所は配布した資料に記載されている通りです。担当上忍師の方々にはそれを元に子供達を鍛えてもらいます。頭首の方々には、一族特有の術・能力を重点的に強化させて下さい」


ここまで話してようやくポツリポツリと返事が返って来るようになった。

別に、俺が殺気を飛ばしていたからでも、威圧していたからでもない。
普段の彼等は火影が相手でも、自分の意見を遠慮なく言える人達なのだから。

ただ単に、個別に纏められた子供達の詳細な報告書が、彼等に一切の反論を許さなかっただけだ。


「尚、中忍試験の受験資格は同里の下忍のみで構成されたスリーマンセルが原則。誰か一人でも不合格ならば三人まとめて不合格になります。けれど三次試験からはトーナメント制の勝ち抜き。つまり――どの班も最低でも二次試験を突破する必要があります。なので第三班と第七班の担当上忍師は、『非該当の下忍――リー・テンテン・サクラ・ナルト――』に関しても二次試験を突破出来るように指導するようにお願い致します」


『非該当の下忍』と言う言葉に反射的にカカシが反論してきた。が、これを期にカカシが俺を自分の班から排除しようとするのは想定内の事だったので、俺も爺ちゃんも特に驚く事も無かった。


「っちょと待ってよ紅炎!ガイの所はまだしも、うち(第七班)には落ちこぼれの『人柱力』が居るんだ、三人揃って二次試験突破させるのは無理だ。サスケを三次試験に進めたいのならばスリーマンセルのメンバーを変えた方が早くて確実だ」

「……落ちこぼれの『人柱力』、ですか」


『人柱力』と言う言葉に、解れ掛けた緊張が戻って来る。

そして、一同の視線が俺とカカシを行ったり来たりする。


「普段の任務報告書からも奴がサスケの足を引っ張っているのは明らかだ。それに他里の忍が出入りする中忍試験は、それに紛れて敵が進入する可能性もある。何処か安全な場所に隔離しておく方が良い」

「……その必要は有りません。確かに彼のアカデミーでの成績は良くはありませんでしたが、彼が居たからこそうちはサスケは『写輪眼』を開眼する事ができたと、現場に居合わせた暗部より報告が上がっています。その他の報告書と合わせて考慮しても、彼がただ足を引っ張っているだけとは思えませんが」

「それはたまたま……」

「それに……彼がいまだに落ちこぼれだとするならば、それは担当上忍師である貴方の責任です。受け持った下忍を正しく育て導くのが上忍師の役目。それを怠っておきながら、随分な言いようですね」

「……ック!!」


カカシの意見は一見正論のように聞こえる。

しかしそれは、自分では人柱力を守りきれない――護衛としては力不足だと認めたも同義。
加えて、上忍師としての駄目さ加減も併せて露呈させている。


――任務放棄と責任逃れ。


誰となく、非難めいた視線がカカシへと注がれた。


「……諦めろカカシ。この暗部の言う通りだ」

「アスマ」

「うずまきはお前が思っている程落ちこぼれちゃいねーよ。それに、下手にスリーマンセルのメンバーを変えるのは得策じゃねぇ。特にサスケは他人とのコミュニケーション能力に欠ける。試験までの短期間で新たな信頼関係を築く事はまず不可能だ」

「それはそうかもしれないが、サクラはともかく、サスケの修行を見ながらドベのナルトの面倒まではみきれない」


人目が少なく、慣れ親しんだ同期が同席しているせいか、火影の前だと言うのに本心が漏れ出しているカカシ。
その事にカカシ本人よりも親友のアスマの方が焦りを感じているようだった。

幾ら上層部の覚えが良いカカシでも、火影の目の前で決定的な発言をしてしまえば懲罰ものなので。


「…………ではこちらで『うずまきナルト』の面倒を見られる者を用意します。貴方の上忍師としての評価は下がりますが、いまはそんな物よりも中忍試験で里外に無様な姿を晒さない事の方が重要ですから」


俺だって試験に向けて、紅炎として裏で動かなければならないのだ。カカシの目が無くなればその分動き易い。
ならばカカシの言動を利用して、それとなく俺からカカシを引き離してしまえば良い。


「あぁそれと……言い忘れてましたが、試験の結果次第では各一族と担当上忍師双方にペナルティーを課しますので、皆さん里の威信と面子の為――強いてはご自身の為に死ぬ気で頑張って下さいね」


そして最後に、俺は脅しを含んだ決定事項を告げた。

険しい顔付きで退室して行く頭首達を見送っていると、奈良家現頭首・奈良シカク上忍が近付き親しげに話し掛けてきた。


「よぉ、久しぶりだな紅炎」

「……奈良上忍」

「忙しいのに悪かったな。余計な面倒掛けちまったみたいで……」

「いえ。これも任務の一貫ですからお気になさらず」

「そうかもしれねーけど、子供(ガキ)共が予定よりも育っていなかったのは完全に俺達の責任だ。守るばかりで鍛える事を疎かにしていた俺達が悪い」

「貴方の息子はまだマシな方ですよ。ただ、あのやる気の無さだけはどうにかした方が良いとは思いますけどね」

「性格的なもんもあるんだろうけど、なまじ頭が良過ぎて先が見え過ぎちまうようなんだよな。そのせいか諦め癖がついちまってな、俺も悩んではいるんだがどうにもできなくてな」

「……意識の問題だと思いますよ。いまはまだ、ぬるま湯の中でうたた寝をしているようなものですから」

「だと良いんだがな」

「今回の中忍試験がその意識を変える切っ掛けになると良いんですが、里の裏事情を何も知らないままでは無理でしょうね」


子供を思うが故に、里や大人達の裏事情は話したくないのは何処の親も同じ。けれどその情けが甘やかしとなり、子供達の成長の妨げとなっている。

普通の子供ならばそれでも良いかもしれないが、彼等は忍の――それも旧家・名家と言われる特殊な一族の次期頭首候補達なのだ。普通の子供と同じでは駄目なのだ。それでは本人ばかりか里も立ち行かなくなってしまう。


「つーかお前、俺にまでその喋り方は止めろよ。落ち着かねーから」

「……幾ら暗部とは言え、初対面の子供(ガキ)がいきなりタメ口で駄目出しする訳にいかねーだろう?仮にも相手は上忍と頭首なんだから」


室内を一瞥した後、俺は面を外すし、会話の最中も探る様に俺を凝視していたシカクと向かい合った。

元零班――俺の世話係の一人だった奈良シカク上忍は、俺の本来の姿と素性を知る数少ない人間の一人だ。

とは言え、シカクと顔を合わせる時は大抵俺が大怪我をした時や特殊な毒を盛られた時に限られていたので、いまだに顔を合わせると必ず体調その他の異常が無いのかを確認される。

爺ちゃんやテンゾウとは違った意味で過保護なシカクに、思わず苦笑いが漏れる。

納得するまで俺を観察したシカクは、『ヨシノが会いたがっているから今度飯でも食いに来い』と言い残して退室して行った。

余談だが、縋るように俺の名を呼び退室を拒否していたバカカシは、アスマ達が三人掛かりで引きずるようにして運び出してくれた。
なので俺とシカクのやり取りは目撃されていない。

だからバカカシは知らない。
俺とシカクがここまで親しい間柄である事を。



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2015/03/03 up
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