とある狐の物語

□04-岐路と選択
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=昇級試験と仔狐の憂鬱=



下忍から中忍・上忍へと昇級するには二通りのパターンがある。

一つはそれまでの実績や実力を考慮して、里長――木ノ葉では火影がそれ相応と見なした場合。

もう一つは、他里と合同で行われる昇級試験をクリアした場合。

数で言えば圧倒的に前者が多いのだが、後者で昇級した場合その者の知名度は大きく、他里に対して分かり易い牽制となる。

その為、旧家・名家の子供達は、半ば強制的に昇級試験への参加が義務付けられている。

合格者の多い里はそれだけ強い里と言う事になるので、その後の任務の依頼数にも影響して来るだけでなく、他里の忍を公式に競わせる事で、互いの戦力を測り、無駄な争いを避けると言う意味合いもある。

つまり昇級試験とは、里外に対する営業活動であると同時に、里同士の『擬似戦争』なのである。

その為、何処の里でも年単位で昇級試験の受験者を検討、候補者を立てている。擬似戦争とは言え、万が一他里の有力候補者とかち合い潰し合いになっては意味が無い。どのタイミングで誰を受験させるかは、第三次忍界大戦以降、里長達が最も頭を痛める問題でもある。

とは言え、下忍になって一年に満たいない子供達にその昇級試験を受験させると言うのは如何なものなのだろうか?

確かに今年度は旧家・名家の子供達――次期頭首候補者が複数同期として下忍になっているが、中忍試験の合格基準を満たしている者は殆どいない。

サスケを始め旧家・名家の子供達は、普段里に大切に保護されている為、とにかく精神面が未熟で幼いのだ。不慮の事態に対応できない。言われた事しかできない。
実技の方は付け焼き刃でどうにかなったとしても、巧みな心理戦を持ち掛けられたら即刻不合格を言い渡されるだろうレベルだ。

弱体化が進む現状で、一人でも優秀な忍を確保したいが為の過保護な対応が見事に仇となっている。

これが影を名乗る火影が治める忍の隠れ里の現状かと思うと、爺ちゃんじゃなくても頭が痛くなる。
しかも今回の昇級試験はこの『木ノ葉隠の里』が開催地なのだ。誰も合格できませんでしたなんて無様な結果は、里が滅んだとしても避けねばならないのだ。

――……が、当の子供達は何も知らず呑気に日々を過ごしている。


「一度担当上忍師及び、頭首陣を呼び出す必要があるな……」


俺は護衛任務の合間に制作した、子供達の詳細な分析記録を前に天井を見上げて大きく息を吐いた。


――第三班-担当上忍師『マイト・ガイ』上忍
  日向家次期頭首候補(補欠)-現頭首甥・日向ネジ

――第七班-担当上忍師『畑カカシ』上忍
  うちは家唯一の生き残り-うちはサスケ

――第八班-担当上忍師『夕日紅』上忍
  犬塚家次期頭首候補-現頭首嫡男・犬塚キバ
  油女家次期党首候補-現頭首嫡男・油女シノ
  日向家次期頭首候補-現頭首嫡女・日向ヒナタ

――第十班-担当上忍師『猿飛アスマ』上忍
  奈良家次期頭首候補-現頭首嫡男・奈良シカマル
  山中家次期頭首候補-現頭首嫡女・山中イノ
  秋道家次期頭首候補-現頭首嫡男・秋道チョウジ


家柄だけならば、文句のつけようもない者達。
秘めたる才能と可能性は他の下忍の比ではない。

けれど良くも悪くも箱入りで、昇級試験を受けさせるには実戦経験が乏しい。

この中で一番下忍歴の長いのは第三班のネジだが、長いと言っても下忍になってまだ一年と少し、こなした任務の数は少なくもないが多くもない。と言うかぶっちゃけ誤差範囲なので他の下忍と然程変わらない。
加えて感情的になると個人プレイに走りがちになる所は、第七班のサスケと大差ない。


(……真面目で努力家では、あるんだけどなぁ)


第八班に関しては、担当上忍師のおおらかな性格がベースになっているせいか全体的にマイペース。それに加えて持って生まれた能力を過信しているせいか、全体的に危険察知能力に欠ける。追跡・探索に秀でた血継限界の血筋だと言うのに。

残る第十班は嘗て火の国の大名直轄の忍組織『守護忍十二士』の元メンバーであり、三代目火影の実子である猿飛アスマが上忍師を務めるだけあり、色々な面でバランスよく育ってはいるが……全体的に飽きっぽく(シカマルが群を抜いてはいるが……)、集中力が保てないと言う欠点がある。

実力だけならば、ネジとサスケがギリギリ合格ライン。
心理戦ならば、知能指数が高く冷静な状況判断が期待できるシカマルが最も合格ラインに近いのだが、なにぶん体術とチャクラ量がそれに追い付いていない。恐らく奈良家秘伝の影を使った忍術も使えはすれど、長時間の維持・連発はできないだろう。


 
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