短編集
□壊して歪んだ
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兄貴に借りた、正しくは押し付けられたゲーム。それは、女の子を攻略していくものらしかった。
最初は別に興味半分で少し覗くつもりだったんだけど…。
(は、ナニコレ)
始めた途端、流れ出した可愛らしい曲と、画面に現れた「キャラクターの作成」という文字。
―――***に相手にされないからってこれにハマるんじゃねーぞ
あぁ、あの時の兄貴のニヤついた顔はこういう意味だったのか、と理解した。
顔、体系、性格、声…全部、自分で設定出来る。オレはさっそく出来上がった***を攻略しにかかった。
最近会えていないからか、ゲームの中にいる彼女が遠く、いとおしく、もどかしく感じた。
それからは部屋にこもってゲームを進めた。画面の中の***と距離を縮め、あっという間に恋人同人に。
毎日、大好きな***の笑顔が見れて、とても気分が良かった。
――でも、気付いた。
笑う彼女に、オレの声は届くことはないんだ、と。
(…何してるんだろ、オレは)
「キルアさま」
***に似せたキャラクターがオレの名を呼び、綺麗な顔で微笑みかけた。首を少し傾げる辺り、本当に、そっくりだ。
その従順な彼女、攻略した彼女が再びオレを呼ぶ。
「キルアさま」
(お前は、ホンモノじゃ、ない)
現実の彼女、オレが欲しい彼女に、手が届かない。オレが名前を呼んでほしいのは、笑いかけてほしいのは…
「…***…」
こんな、似せたヤツじゃだめだ。だめなのに。なんで。
「なんでだよっ」
オレだけを見てくれよ――
画面の中のコイツみたいに――!
「キルアさ
何も知らずに微笑う彼女をぐしゃぐしゃにした。そのままでいろよ、もうずっとオレを見ていればいい。
きがつけば、
画面には彼女の姿はなく、黒が広がっているだけだった。
「……好きだ、」
壊してやりたいくらい。