作文〜1〜

□こんとらすと
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こんとらすと

―阿部SIDE―
 部室がいつものように騒がしい。
ドアを開ける前からわーわーと声が聞こえてくる。
犯人は田島と水谷とそれをおとなしくさせようとしている栄口。
 阿部は一瞬ドアを開けるのを躊躇ったが、そうは言ってもいられないので
思い切って開けた。

「うぉ いいとこに来たぁ〜あーべー」
田島はパンツ一丁の格好で阿部に飛び付いた。
「田島 狭いんだからさっさと着替えてグラウンド行けよ!」
「まだ、着替えてんじゃーん。いいだろう。うざいなぁ」
 田島を振りほどきながらロッカーにたどり着くと、無言で着替え始めた。
特にご機嫌斜めとかいうわけでない。これが阿部の日常。

「あのね。阿部ぇ 俺達今チームの皆のカラーが何かなって話してたんだぁ」
「はぁ?何?チームカラーみたいな?応援の時とか学校のイメージカラー的な?」
「ちげーよ。そんなんじゃなくて。一人ひとりの色ってこと」
「それ決めてどうなるってことでもないんだけどさぁ。なんか楽しくない?」
 ふにゃふにゃと笑いながら水谷は阿部に同意を求めた。
ぶっちゃけ、何が面白いのか全くわからなかったので黙々と着替えを続けた。
「興味ねーの?」
「ねーなぁ・・」
3人があーだこーだと何か言ってるのを背後で聞きながら、最後に帽子をかぶった。
「で、三橋が・・」
栄口がその名前を出した瞬間、阿部は今よりもっと帽子を目深にかぶり直した。
 それから、ぼそっと小さな声で告げた。
「三橋は白に決まってんじゃん。100人いたら100人ともそう言うに決まってんだろ。
だから、こんなん考えるの時間の無駄だっつーの」
 3人を残してバタンとドアが閉まる音が部室に響いた。
 

 阿部はややうつむいた状態でグラウンドまで走った。
 誰が考えてもそうだろう。
あんな無垢で、卑屈だとか、面倒くさいやつって思うけど、まるで子供みたいで、
もう16なのにこれからどんなに色にでも変わることができる。
 いや・・変えることができる。
野球だってそうだ。
投球指導すら受けていないあいつはどんなにも染まることができるし、いやなほど努力するやつだ。
だからと言って、無色じゃない。無色透明だなんて思えない。
あいつは真っ白だ。白いノートには文字だって書けるし、絵だって書ける。
そう、真っ白だから色々な色を載せることができるんだ。
 三橋のカラーは間違いなく白だ。何も悩む必要ないのにな。不思議なやつら。
 俺はうつむいた顔を上げた。
真っ青に晴れ渡る空を見上げたら、白い雲がふわふわと浮いている。
 もしも、もしも、俺が俺の色を決めていいと言ってくれるならば、イメージとは違うかもしれないけど「青」ならいいと思う。
 三橋の白を邪魔しない空の色。浮いている雲を抱えて支えることができる空の色。
―まぁ 俺のイメージがそんな爽やかな色じゃねーってことは俺が一番知ってるつーの―
 俺はベンチに置いてあったボールを空高く放った。まっすぐ空高く上がったボールを俺の黒いミットに吸い込まれた。
―ナイキャ・・ボールも白っ やっぱり三橋は白だなっ―
まだ誰もいないグラウンドで白球を見つめながら俺は一人でほほ笑んだ。


―三橋 SIDE-
 てててっ。
三橋は掃除当番だった上に、担任から呼ばれてテストの結果についてお説教を受けていた。皆より随分と遅れて部室に向かっていた。
―どうしよう。急いで着替えないとっ。もう皆練習してるっ―
 案の定、部室はがらんとしていた。ちょっとだけ寂しくなりながらも急がないといけないのでバタバタとロッカーを開けて着替えを始めた。
 その時、背後でいきなりドアが開く音がした。
「みーはーしー 早く着替えちゃいな〜」
「三橋― 着替えながら俺らの質問に答えてくれよなぁ」
 振り向いたら、にやけた栄口と水谷がいた。
三橋は2人がわざわざ待っていてくれたんだと思い、嬉しくて涙がじんわりと浮かんでいた。
「2人とも 待っててくれたの?ありがとう。オレ急ぐよ」
重ね着していたシャツを二枚同時に脱いでいた。
「着替えながら答えろよぉ。チームのメンバーが何色かイメージしてみてくれ。」
「いろぉ?」
「そ。色。例えばモモカンだったら桃色とかなっ」
「うおぅ モモカンは桃色っ うひっ でもモモカンは時々真っ赤とか青くなるね」
「まぁそんな感じ!イメージだ。」
「わかった。オレ イメージするよ」
「じゃ、俺は?俺は?」
「みず たにくんは 水色だっ」
「お前 それただ名前だけじゃねーの?もうちっとイメージしろよ」
「う・・オレ イメージ足りないよね。」
「まぁ いいけどね。水色でも。でも、そうなると名前とかから答えちゃいそうだもんな〜」
栄口は水谷の脇をつついたあと、目くばせをした。
三橋はそんな二人のやり取りには気がつかない様子で、身体は着替えることに集中した。
頭は皆が今から誰を言うだろうか?とわくわく・そわそわしていた。
 栄口は頬笑みながら、三橋に問いかけた。
「じゃ 三橋 阿部は何色だ?」
 ボタンを止める手が止まった。三橋の頭がフル回転し始めた。
ブーンとか、ギューンとか音がしそうなくらい回転し、目がぱちぱちと瞬きを数回繰り返した。
「三橋ぃ?何色?」
 三橋の顔は全力疾走をした後か、もしくはものすごく辛い物を食べた後のように真っ赤になっていた。
それから、にまぁっと変な笑顔を見せた。
「阿部くんっ 阿部君は 黒だっ」
「おおぉ!だよなぁ〜阿部は黒だよな。」
「やっぱ そうかぁ 
三橋なら違うこと言うかなぁって思ってたけど。やっぱ阿部は黒だなぁ」
「うぉ。皆もそう思う?」
「思うよ。あいつ黒いもんなぁ」
「うん。色々黒いよね・・」
「阿部くん 黒 かっこいい。グローブも黒い。防具も黒い。
黒いグローブに俺のボール吸いこまれていくんだ。真っ黒は強いよね。
阿部くん強いから。黒だとなんの色にも染まらないけど優しいんだ。
夜みたいだよね。絶対、朝がくるって阿部くん見てると思う。夜は怖いこと沢山ある。暗いとこもある。
けど、星綺麗だ。月も綺麗。それは夜が黒だからっ。阿部君は皆を守ってるんだ。
ホームベースも守るし、オレも守ってくれている。優しくて強い黒なんだよ。」
三橋は一気に吐き出した。そのあと満足げに二人の顔を見た。
「えっと・・黒ってそういう意味?」
「皆も一緒なら。オレ嬉しいっ。阿部くん 黒 かっこいいから喜ぶよね。うひっ
オレも 黒とか言われ たいっ。」
「えーっと・・三橋。三橋は多分「黒」じゃねーな」
「でも。まぁ。黒の理由がそれなら阿部はにやけがとまんねーんじゃね?」
「だったら、この話はここで終わりだな・・。阿部喜ばせてもつまんねーしな」
「まぁ。卒業でもすっときに言ってやっか。ほら。三橋とっとと着替えろ。俺ら行ってるぞ」
「わ。すぐ着替える。先行ってて下さいっ」
 三橋はアンダーシャツを頭からかぶりながら、満足げに鼻歌を歌っていた。
―阿部くんは「黒」だ。かっこいい。オレは何色だろう・・。
  阿部くんに近い色だったら。いいな。阿部くんの黒に邪魔にならない色でもいいな。―


―黒と白―

 栄口と水谷はグラウンドまで走った。
「なぁ。三橋が白で阿部が黒だって。」
「三橋が白の理由って阿部言わなかったけど。白と黒かぁ」
「俺はさ。エースだから三橋は「赤」とかかなって思ったんだ。
そんでね、阿部は確かに「黒」だけどさ。三橋は阿部のこと「青」とか言うかなって思ったんだよな。
三橋が言ってる「黒」ってなんか違うよな」
「戦隊ヒーローもの的な感覚もあるよなぁ。まぁそういう意味で田島が「赤」かもな」
「まぁ。4番だしなぁ。俺はなんかホント水色とかって感じだよな。
三橋がさ・・阿部の黒いグローブに俺のボールが吸いこまれるって言った時なんかちょっと俺びっくりしたんだよなぁ。」
「ボールって白いもんな。白球だもんな。ホームベースも白だよな。」
「そ。そこで、俺・・変な妄想したんだよね。三橋が阿部に抱きよせられて・・」
「ちょっ 水谷っ やめようよ。
でも・・俺も一瞬どきっとしたんだよ。グローブが阿部だろ。ボール三橋。
ホームベースを守るのが阿部。ホームベースも白。白は三橋・・ぞくっ
なんか三橋と阿部の話しがいないところで繋がってるってのがね。」
「あれって依存っていうのかな?」
栄口は水谷をじっと睨みつけた。
「―依存―は・・もう通り越えたと思うよ。
でもね。もう二人のなかでは―依存―とは違う何かが動きだしてるんだろうなって思うんだよな。
でも、きっとそれはいい形だと思うんだよ俺は。」
「そうだね。うん。阿部がなんで三橋を「白」かってのも聞いてないけど、きっと悪いことじゃなさそうだもんね。」
「だよ。うん。大丈夫。あの二人は白と黒であっても決して混ざるわけじゃないんだ。
依存じゃない。白と黒がいいバランスなんだ。
きっと「調和」するんだよ。グレーになることはないんだ。お互いがちゃんと主張しあって、支えあってんだな。
あいつら、成長してんだよな。」
「栄口もすごいよね。そんなこと俺 ぜーんぜん思いつかないよ」
「で、水谷ぃ 俺は何色?」
「栄口は・・うーん・・黄色かな?」
「黄色?カレー?」
「違うよ 信号の黄色みたいな感じ。基本的に止まれだけどさ。
でも、進まないといけないみたいな。そんな感じ?よくわかんないけど。なんかそんな感じ。」
「まぁ カレーじゃないならいいかぁ。あんがとね。」

 栄口はバッテリーの「白」と「黒」の話をいつか二人に聞かせてあげようと心に決めた。
甲子園の切符を手に入れた時にでも二人に話して聞かせてあげたいと。

「水谷くっ ん 栄口くんっ」
真っ白なエースが風と一緒に俺たちに追いついた。

今日も三橋の白いボールは、阿部の黒いミットに音を立てて投げ込まれる。
 
 初代バッテリーのイメージカラー
  白 三橋廉   黒 阿部隆也

  西浦野球部の伝統として永遠に語り継がれていく

   

 

―終わり―




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