作文〜1〜

□花 ほころぶころ 再び
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花 ほころぶころ 再び

「花井様 こちらが祝電でございます。数名選んで頂けますか?」
ざざざっと電報の束に目を通した。
「ぁああ これ・・」
新郎の手は震えた。新婦にそっと2通の電報を渡した。
シンプルなウェディングドレスに身を包んだ7つ年上の花嫁は優しくほほ笑んだ。
新婦は黙って新郎の手をぎゅっと握った。

―あの時 あの場所 お前も 運命の人に出会っていたんだな
  これからもずっと俺らの主将でいてくれ ―

―ご結婚おめでとうございます
  お誕生日おめでとうございます
   二人一緒ならいつでもどこでもいつまでも最強だ −

 どちらの電報も開いたと同時にオルゴールの音が鳴りだした。
それはウェディングソングではなかった。
「Happy Birthday to You」同じメロディが追いかけ合いながら奏でていた。

 あの時 あの場所 阿部も三橋もそして俺たちも同じ日に運命の出会いをしていたんだと、そういう思いがこめられた祝電。
 誕生日 俺と彼女の誕生日が4月。
三橋の誕生日を祝った時に俺と巣山の誕生日も一緒に祝ってくれた、あれは5月の出来事。
 今、この結婚式場にあいつらの姿はきっとない。
二人に送った招待状は返事が来なかった。垂れ目の捕手に送った招待状は発送して5日後に「宛先不明」で戻ってきた。
卑屈な投手に送った招待状は発送して10日後に「欠席」という返事で戻ってきた。
そこには名前と欠席に○が囲んであるだけ。住所も何もなかった。三橋が書いた文字なのかも判別付かない。
そもそも三橋の文字なんてどんな字だったか覚えていない。
二人一緒にいるのか?元気でいるのか?それすらわからない。
ただ、この電報。
二人が一緒にいるという証だろう?祝ってくれているのはもちろんだ。
それだけじゃない。この電報の意味。二人が一緒にいて元気にいるってことを伝えてくれたんだろう?そして、誕生日。
そう、三橋の誕生日がやがてくる。三橋の誕生日がやがてくるんだ。
この電報には何か意味があるはず。出席している仲間達にこの電報を回覧しよう。田島なら泉なら、三橋の言葉がきっとわかるはずだ。
どちらの電報の文面も、深読みすれば何か読みとれる。
「二人一緒ならいつでもどこでもいつまでも最強だ」
これは俺に宛てた言葉か?それともお前たち二人のこと?やっぱり元気だってそう伝えてくれたんだろう?
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