作文〜1〜

□ブラック+1cm
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ブラック+1cm

三橋にようやく告白した。
長すぎる時間をかけてようやく。

三橋と同居を始めて1カ月が過ぎた。
三橋への「恋」に気がついて数カ月が過ぎた。
そう・・だからようやく。

三橋のことが愛しいと感じた自分に何度も何度も問いかけた。
その感情はおかしい。
三橋は男だ。
三橋が投手だから勘違いしてるんじゃないか?
そう、それはもう何度も何度も。

大学受験をするときに、ようやくわかったことがあった。
そう、三橋は男で三橋は投手・・

それでも俺は


―ハナレタクナイーと

その気持ちだけを認めるだけですっきりした。
本当に三橋を好きになったのは多分もっと前。ずっと前。
でも、自分の気持ちを認めることができたのは志望校を決めた時。
三橋がすでに推薦を貰っている学校を受験すると決めた時。

そのあとの俺は勉強より何より、三橋との距離を強引に縮めるために動いた。
親を使い同居にこぎつけた。こういう戦略は俺は間違わない。

あとは、三橋の気持ちだけ。
一緒に暮らすようになって、じわじわと自分の「恋心」がこんなに強いものなのかって
怖いぐらいに驚いた。

少しでも一緒に三橋と過ごしたい。
三橋の笑顔を見ていたい。
そうなると朝ごはんを一緒に食べるが手っ取り早い。
夜はどうしてもアルバイトや部活とかそれぞれの予定の方が優先されるからだ。

三橋の気持ちを確かめることは正直怖かった。
強引に押して押して押しまくろうと思っていたけど1カ月正直そろどころじゃなかった。

三橋が可愛いくて・・しかたない。
すっごく朝眠くて、起きれないと思っていてもキッチンからばたばたと(本人は静かに動いているつもりでも)
コーヒーを沸かしてくれている音が聞こえたり、変な鼻歌が聞こえてくると
もうただでさえ下がっている目元がもっと下がってしまう。
枕をぎゅっと抱きしめて、深呼吸する。
わざと今起きたようなふりをしてキッチンに向かう。

三橋はマグカップを両手に持ってホットミルクを飲む。
その姿が可愛い。
申し訳ないが、この姿は他の人に見せたない。
独占欲の塊だった。


それでも「告白」となると勇気がない。
三橋はおそらく俺のことを「キライ」ではないと思う。
「怖い」かもしれないが・・「キライ」ではないと思う。
それでも、「好き」かどうかと問われたら途端に自信がなくなる。

まずは自分と三橋の関係で変えないといけないと思ったのは
「バッテリー」で「チームメイト」
そう。この関係がいつまでも続けば俺たちの関係は進展しない。
三橋と俺は依存しあった関係のように思われがちだったが
3年間の月日のなかで徐々に変わっていった。
それでも三橋の口癖である
「阿部君はすごい」「阿部君は俺の球を受けてくれる」の気持ちが
完全になくなることはなかった。
だったら、この関係を無くすしかない。

俺は大学では野球は辞めた。
野球よりもやりたいことを見つけようと思って学部も選んでいた。
決して三橋がいるからだけで選んだからではない。

ようやく二人の関係がただの同級生で同居人という。
まぁ若干特殊ではあるが(姑息な手も使ったが)今までの関係がちょっと変わった今
三橋ともっと新しい関係に変えていけるチャンスだった。

ただ、俺はずるいんだ。
もし、数カ月同居をしてみて三橋の気持ちが俺に1mmも無いと思ったら、
その時は理由をつけて同居を解消するつもりだった。
理由は何でもいい。
「彼女ができたから一人暮らししたい」とか。
「野球の練習のためにもっと近い所に引っ越せ」とか。

とことん俺はずるい。
独占したくて、親使って同居して
自信なくって、駄目だったら解消する・・そんな準備までする。
ずるいな・・


随分、前置きが長くなったけど 今朝「告白」をした。

自信があったわけじゃない。
毎朝一緒に飯を食う。
楽しそうな笑顔。この笑顔を本当に取られたくなかった。それだか。
だったら動かなくちゃ。

朝ごはんを食べて、「いってらっしゃい」とか「いってきます」を掛け合う時に
三橋がいっつも楽しそうに笑っている。それが永遠に続けばいいとそれだけでも
伝えたいと思った。

俺が「告白」を決意したきっかけがあった。
多分、このきっかけがなかったら俺はもしかしたら
夏休みぐらいまで今の「同居」に満足して暮らしていたかもしれない。


正確に言うと「きっかけ」ではなくて「自信」を持てたってことかもしれない。
ほんの些細なことだけど俺にとっては大きな「自信」になった。

そう、3日前の休みの日。
泉と栄口が卒業式の写真とか部活の写真を持って部屋に遊びに来た。

三橋はコーヒーを3杯分沸かし始めた。
俺たちはこたつで写真を見ながらわいわいと騒いでいた。
赤いカップにはなみなみと牛乳を注いで電子レンジで温めていた。
いつものようにコーヒーの香りが漂い始めたので俺はキッチンに移動して
(一応)お客の二人のためにお茶の準備を手伝い始めた。

「あべくん 座ってていいよ」
三橋は手慣れた様子でお茶の準備をしていた。
「まぁ運ぶぐらいは、やんねーと。あいつらからなんて言われるか・・」
「そうだぞー三橋 同居なんだから対等だぞ〜阿部にもやらせろ〜」
泉の声が響いた。
「ほら。あいつらうるせーんだって。」
「じゃ、オレ カップいれるから阿部君運んで」
そう言って、三橋は黒い俺のマグカップに赤い三橋のマグカップの牛乳を1cm注いだ。
それから、俺のカップに沸きたてのコーヒーを注いだ。
来客用ではないが予備のマグカップ二つにはコーヒーだけを注いだ。
三橋は自分のホットミルクにはそのあと砂糖をたっぷりいれてスプーンを刺したままトレイに載せた。
トレイにあらかじめ準備されていた、スプーン二つと小さいカップに牛乳が移されていた。

「こっちが泉くんと栄口くんのだよ。」
「それぐらいわかるよ。」
三橋のそばにちょっと近づいて耳元でこっそり尋ねた。
「俺のコーヒーにはホットミルクがいっつも入ってんの?つめてーやつじゃなくて?」
「せっかくのコーヒーが冷えちゃうでしょ?ごめん 嫌だった?」
「や・・ちょ 嬉しいんですけど」
三橋の頬は真っ赤だった。
俺の顔も負けず劣らず真っ赤だった
そう、俺は知らなかったんだ。毎朝入っているコーヒーの中の牛乳が三橋のカップから分けてもらってるものだったなんて。

朝のコーヒー
いつも三橋が淹れてくれるコーヒー。
その中にはいつも牛乳が入っている。
俺が席に着く時には既に牛乳が入っていた。
もちろん、普通に冷蔵庫から紙パックに入っている牛乳が注がれていると俺は思っていた。
知らなかったんだ。三橋のホットミルクが俺のコーヒーに注がれているってこと。


そして、俺はすごい嬉しかった。
元チームメイトの二人とのちょっとした差が。
それが、ただの「日常」の些細な出来事だとしても、二人だけが共有しているものがあるってことが。
なんだろう、俺 牛乳ごときでちょっと感動してる。

「何 二人でもじもじしてんの?」
背後から栄口の声が聞こえた。
「コーヒー入ったから今持ってく。あ!ケーキもあるんだよな。ちょっと待ってろ」
「阿部くん ケーキは栄口くんが持ってきてくれたんだよっ」
「おお そうだったな。ありがとうな・・」
「なんか 二人とも顔赤いんですけど・・何やってんの?」
「何にもやってねーよ」

栄口と泉は運んできたカップと、三橋が手に持っている赤いマグカップと俺が持っている黒いマグカップを交互に見つめた。
「それ」
二人のカップを指差した。
「一緒に買ったの?」
三橋と俺は顔を合わせて、カップに目をやった。
「これは、三橋んちに余ってるのがあるっていうから貰ったんだよ な みは・・」
三橋は下を向いてもじもじしていた。
「え?ちげーの?」
俺はちょっとびっくりした。同居を始めるときに確かにそう聞いたはずだ。
「えっと・・その 」
三橋の目が宙を舞う。
「ああ・・もう それでいいじゃーん。早くケーキ食べようよ 三橋 お皿どこ?
泉余計なこと言わないっ。ただでさえややこしいのに・・」
キッと泉を睨みつけながら栄口は三橋と一緒にキッチンに戻っていった。

俺は黒いカップを手に持ったままこたつの前で立ちすくんでいた。
「あーべー お前 三橋に手ぇ出すなよ」
泉のどすが聞いた声が胸に響いた。
そして俺はちょっとだけ気がついた。もちろん都合がいい方向に。
「泉 お前らが知ってて俺だけ気がついてないこととかあるか?」
泉は俺の方をじぃーーと睨みつけた。
「ずっと気がつくな バカ」
そう言いながら脛に蹴りを入れられた。
「いてっ」と、声に出したが痛みはたいしたことなかった。
喜びに目元がにやけて仕方なかった。
「きもいぞ 阿部」
「うるせっ」
「阿部 一つだけ言っておく お前も三橋と一緒で意外に言ってること小難しくてわかんねーからな
それだけは忘れんなよ」
泉が背後で何か言ってるがあまり聞こえていなかった。

マグカップで揺れる「コーヒー牛乳」色を見ながら俺は決意した。
「三橋に告白をしよう」と。なるべく早く「告白」しよう。

毎朝、俺のために「ホットミルク」を分けてくれる三橋に好きだと言おう。
新しい俺たちの関係を始めようと決めた。

そうだ!「三橋はホットミルクみたいだな」とかいいじゃないかな?
純白な三橋のイメージぴったりだし。
うしっ。三橋が後で心に残るような告白をしよう。

阿部隆也の告白が、後に 三橋の心に残るような告白になったかは三橋以外は誰も知らない。

―終わり―



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