作文〜3〜
□爪の先まで
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爪の先まで
埃っぽくて、男くさい部室に俺と三橋は二人で向き合う。
俺は足を投げ出して壁に凭れかかり、ただひたすら快感から逃れるために切れかけの蛍光灯のチラつきを眺める。
ちゅ、ちゅ、ぺちゃぺちゃと可愛らしくもあり、いやらしい水音。
その音は俺の手の上であり、三橋の唇から奏でつむがれる音。
くすぐったいだけじゃない感覚、ブルリと身体が震える感覚、視線を落すと三橋のふわふわなくせ毛とその奥には真っ白い首筋。
ビクッ一瞬身体を撓らせながらその行為を止めることなく没頭する俺のエース。時々上目遣いでチラッと見ては唇の端をちょっとだけあげて、又その行為に集中する。
小指の爪を甘く噛まれ“うっ”と声を漏らした。我慢できず余っている右手で三橋の髪を梳く。
チュッと小さく音を立てながら、指一本一本をねぶるように舐める。ささくれた爪と皮膚の間には羽のようなキスを落し、そのまま少しずつ本当に小さく少しずつ唇を動かす。
丁寧に指の股をチロリと舐める。舐めながら俺の顔を又見る。視線を絡めて、主導権を奪い返そうと三橋の頬に手を伸ばそうとするタイミングで五本の指全てを口に含んで赤い舌を見せつけるようにチラチラと舐めしゃぶる。
「三橋 いい加減に・・」
耳を貸そうともしない。三橋もどうやら興奮しているようで、撫でた頬が熱くて赤い。
俺の指に、手にキスをしたいだけだって言ったから許した。
ハーモニカのように吸い吹いてはなぶる。アイスキャンディーのようにペロリと舐めては優しく噛む。
いつも阿部くんが俺にしてくれることをしたいだけだと、そう言われたから許した。
ただ指にキスをするだけだと、手に唇を落すだけだと決めつけたのは俺の判断ミスだった。
投げだした足の中心は昂ぶり、腰が痺れるように重い。止めてくれと頼んでみても三橋は口に含んだ指に夢中で首を横に振るばかり。その横に振る振動が頬の内側の三橋のやらかい部分にあたって気持いい。
とっくに気が付いている。三橋が口に含みたいものが何なのか。
だから俺は当然錯覚していた。もう、指じゃない。含まれたものは俺の指でもなく、手でもなく俺自身だ。
三橋が与える愛撫に俺は興奮している。本当に触れて欲しい所はほっておかれたままなのに、自分で触ることは許されない気がして、そのもどかしさとじれったさが身体と精神を追い詰める。
三橋にはめられたと思った。俺がいつもしていることをしたいだけ・・なんて嘘だ。お前が俺にしたいことはそんなもんじゃねーだろ?お前の隠してる欲をもっともっと暴いてやりたいのに、俺は三橋の愛撫にただひたすら溺れて何も考えられなくなる。
今日は満足するまで好きにすればいいと頭を過った瞬間、思いっきり噛みつかれた。
ピリリと痛みが走った場所は左手の薬指の付け根。ぼんやりとした頭で三橋の顔をのぞくと薬指を一本口の中にすっぽり加えたまま、舌を使いながら徐々に吐き出して行く。
ニカリと笑った三橋に俺の背筋がゾクリと凍った。それは怖いのにどこか優越感を感じさせた。そして生まれて初めて感じた疼くような快感。
呆然と三橋を見つめていたら、舐めしゃぶってベタベタな手のひらに“ちゅ”、ひっくり返して手の甲に“ちゅ”と優しく唇を落とす。
その姿はまるで王子様・・俺が姫っておかしくねぇか?と心の中で盛大に突っ込む。
「阿部くんの手 大好きだ。だから、阿部くんがいつもオレにしてくれるようにキスしたんだよ」
チガウ オレ は オマエ の 手 に 指に そんな キスはしない
「阿部くん の 手は オレの もの だよ」
ソウダ 手だけじゃない 全部 俺はオマエのもので お前は オレ のものだ
「だからダメだよ オレ以外の人のものになっちゃ・・ね?」
罰を受けていたとわかっていた。わかっていたから罰を受けた。
見られてたと知っていて、俺はもらったんだよ、三橋。下級生の子たちから本気のバレンタインのチョコレートを。三橋の反応が見たかったから、三橋に妬いて欲しかったからそれだけだった。
でも、この種明かしは絶対しない。
指に与えられたリングの噛痕は三橋から贈り物。
だったら、俺もお返ししなきゃな。俺は三橋の唇に噛みつくようなキスをした。
三橋がくれた掌への施しをどこへ返してやろうか?お前が欲しい場所を言えよ。壊れるまで抱けば満足か?お前の欲を俺が満たしてやる。
お前が与えてほしいことを言えよ・・全部くれてやる・・俺を三橋へ・・
だから、三橋
お前も俺のものってことを忘れるんじゃねーよ。
歪んだ二人の束縛には二人で目を閉じよう。
甘く甘く・・痛くて甘い・・俺たちのバレンタイン。
三橋は見つめていた。
チラつく蛍光灯がブラックアウトした瞬間と必死になって三橋にしゃぶりつく阿部隆也と言う恋人の姿を。
2014/2/7
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