作文〜3〜

□ぬくもり
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ぬくもり U side-A-

 三橋が挙動不審な理由なんてとっくにわかっていた。きっとまもなく迎える俺の誕生日のことを考えてくれているんだって。鈍感だと言われ続けた俺でもさすがになんとなくわかる。
 俺のことを考えてぐるぐるしてくれる三橋がすげぇー可愛いとか気持ち悪いくらい思ってる。
 帰り道に、なんとなくじゃれあって、じゃれあうことも必死で、じゃれあうってことさえ知らなかった1年前に比べればお互いの距離がすごく近くにいることだってちゃんとわかっている。
 だから・・だから・・反対にちょっと寂しいとかって思ったら贅沢な悩みなんだろう。

 ふざけるように三橋を抱きしめた。俺としてはかなり勇気を出して抱きしめた。だけど、三橋にそれが伝わってるかは正直わからない。多分、田島や泉にいつもされている“ふざけている”感じなんだろうなって・・これが女にされてるんだったら三橋だってきっと気付く。
 『じゃれあう』って、さっきは無理矢理そう言って自分を落ちつかせたけど、俺的には『いちゃついてる』『べたべたしてる』ってのが本音。だけど、きっと三橋には伝わってないと思う。いやどうだろ?意外に気付いてるか?気付いてないだろうな。
 結局恋人同士にというものになっても、なかなか意思の疎通はうまくいってないのかもしれない。それでも、以前と違ってその“恋人同士”という枠組みがあるから色々と甘くなる。そんな心境の変化に驚くというか焦ってしまう。
 

 男のくせに甘い髪の匂いがなんだかたまらなくって思わず三橋の髪をくしゃくしゃと掻きまわす。
三橋は子犬のように俺の胸元で小さく暴れる。そして急に止まった。
 トクトクと刻む心臓の音を確かめるように左胸にホッペをぴったりと密着させる。
 
 
 俺が三橋に今一番欲しいものをここで言ったらびっくりするよな?
 三橋が誕生日に何かしてくれようと考えてるのに俺がリクエストしたら絶対こいつ怒るよな。
 でもそれは小さな俺の願いだ。
 
 俺は一気に夜になった空を見上げて三橋を胸元からグッと離した。
「寒くなったからもう帰ろうぜ」と、ちょっとだけ素っ気なく声をかけると三橋はフニャリと寂しそうに笑う。
「さっきまであったかい って 思ってたのに ホント 寒いね」
「あ!でも三橋がいるとあったけぇってのは嘘じゃねーから」
 フォローするわけじゃないけど寂しそうな三橋の顔を見たら思わず口からこぼれた。
「う うんっ オレ オレも そうだ 阿部くんいるとあったかい んだ」
 かさついたホッペが真っ赤に染まってる三橋を見て、本当に俺は贅沢になってしまったなぁってしみじみ思った。
「お前 わかってんだろうけど・・」
「投げないよっ」
「いや、そりゃ当り前だろ そうじゃなくて・・風邪引くなよ?」
「うん オレ 12月は絶対風邪引けないんだっ」
「絶対?なんで?」
「え・・絶対 だ ・・ 阿部くんもひいちゃダメだけど・・」
「だからなんでだ?いや当然ダメだけどさ。なんか理由あんのか?」
「だって」
「だって?なんだよ」
「う んと 風邪はダメだから」
「あっそ」

 理由なんてわかってる。でも、三橋が言わないって言うんなら今日は無理矢理聞きだすのを止めよう。
「阿部くんもひかないで ね」
「おう 11日まではな!」
「ふぁ!ああ 阿部くんっ」
「テストあるからだろ?」と、意地悪そうに俺が笑うと三橋は真っ赤になりながらちょっとぷくりと膨れた。
「そうだよ」

 俺たちは交差点で別れた。三橋の背中を見送りながら小さく俺は呟いた。
―誕生日に欲しいものがあるんだ―
 俺はさっきふざけて抱き寄せた三橋のぬくもりを思い出す。
 その時気がついたこと。三橋の両手がぶらぶらと彷徨っていたことに。
―誕生日に欲しいものがあるんだ―
 そう、その行き場のなかった両手が俺の身体のどこか一部にでも触れて欲しい。
 それが俺の欲しいもの。
 背中でも腰でも首でももちろん三橋の頬が密着してた俺の心臓の上でもかまわないから・・俺のどこかに三橋の手が触れて欲しい。

 やっぱりそれは贅沢な誕生日プレゼントだよな・・と、小さく嘆息しながら俺は歩き出した。
 
 その願いは12月11日に叶うことを俺はまだ知らなかった。

2013/12/2

 欲しいものがキスまでもいかないうぶな阿部に驚いた(おい)



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