作文〜3〜

□シングルベッド
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シングルベッド

SIDE−M−

寄り道みたいな始まりが 二年も続いた・・か・・

 ずっと昔、お父さんがよくカラオケで歌っていた歌が最近再び流れている。
小さい時は意味がよくわからなかったけど、この歌は別れの歌だったんだね。
 お父さんは、この歌がすごくせつなくて、寂しくなるって言ってた。
 お母さんとすごく貧乏だった時に、ベッドじゃなくて狭い部屋に二人でいたんだよって照れて笑ってた。ベッドなんて買えなかったから・・と、話しの続きがあったみたいだけど、お母さんが“廉に何の話をしてるの”と、真っ赤になって口を両手で塞がれていた。オレは、そんな二人がすごく面白くて、きゃっきゃっと笑っていたんだ。
 今になったら、色々意味がわかることもある。お父さんとお母さんにも青春時代があって、二人で乗り越えてきたんだって。オレが産まれたことだって、今思えばすごく大変なことだったんだろうって。でも、それを二人で頑張って、頑張って越えてきたんだ。
 だから・・お父さんとお母さんはこの歌を聞いて思いだすことがあっても、きっと最終的にはハッピーエンドだったんだね。

 お父さんは押さえれた手を剥がして、急に真面目な顔をしてまだ小さいオレに向かって最後はこう言ってた。
「廉 過去に戻ってやりなおすことはできないけど、未来は自分で作るんだぞ。
お父さんとお母さんも自分たちでそうやって作ったんだぞ」って言ってた。
 やっぱり、オレは小さかったからその意味はその時はよくわからなかったけど、この歌を歌うたびに同じことを言ってくれたから、今でも自然と頭に残っていた。


 オレは大学を卒業と同時に念願のプロ球団へ入ることができた。
 プロ野球に入りたいと思ったのは、高校で西浦に入って、阿部くんに出会えたからかもしれない。
 オレが野球を今続けているのは、阿部くんのおかげだ。

 そして、オレはいつの頃からか阿部くんのことを好きになっていた。
 だから、あの日西浦の皆と飲みに行った帰りに、阿部くんが泊っていくか?と言われたのを断らなかった。
 その日から、何回か阿部くんちに泊るようになって、突然キスしてもいいか?って聞かれたから、オレは嬉しくて“うん”と答えた。
 キスをするのは初めてだった。阿部くんは多分、初めてじゃない。
 何回かキスをするうちにわかったんだ。
 そう、阿部くんがオレにキスをした理由。
 阿部くんはちょうど彼女がいなかった。だから、寂しくて、オレにキスをしたんだって・・わかったんだ。それでも、オレは拒めなくて、むしろ嬉しくてそのキスだけの関係をしばらく続けた。
 ある日、阿部くんはキスした後にギュッとオレを抱き寄せた。そう、すごく暑い日だった。暑いのに、阿部くんがオレをギュッと抱き寄せるから、もっと暑くて、それでもオレも離れたくなかった。
 いつものように、キスが続くのかな?って思っていたら、阿部くんオレの頬に両手で触れた。今日はお酒は入ってないはずなのに、阿部くんの目が潤んでいた。驚いたのは、阿部くんの目が潤んでいたことだけじゃなくて、オレの頬を撫ぜる阿部くんの手が、指がカタカタと小さく震えていた。本当に小さく小さくだけど、確かにその指は震えていた。
「大丈夫」と、声をかけても返事はなくて、その代わり真剣な顔してオレの目をジッと見る。
「三橋。抱いていい?」
「え?」
「抱きたいんだ」
阿部くんの指の震えが、オレの頬に伝わって、オレの顔も震えている。
「駄目か?」
「駄目じゃないよ」と、笑って答えた。
駄目なはずがない。好きな人にオレは抱かれる。抱かれる理由なんて、何にも要らない。
阿部くんがオレを抱きたいと思ってくれるなら、抱いて欲しい。
阿部くんがオレを欲しいと思ってくれるなら、全部あげたい。

 何度も、“やめようか?”とか“痛くないか?”と聞かれるけど、痛くても止めたくないし、次なんていつくるかもわからないし、痛い顔したら次が無くなるならオレは笑ってる。阿部くんに気持ち良くなってもらいたかったのに、阿部くんはなんだか時々苦しそうに笑った。
 キスも優しかった、触れる指も優しかった、初めて暴かれる場所ばかりで、そのハジメテが全部阿部くんが見つけてくれると思ったら、オレはそれだけで気持ち良かった。


 だからオレは忘れてた。
阿部くんは、オレと恋していたわけじゃない。
阿部くんは『寄り道』だったんだよね。オレとの2年間は・・

オレのプロ入りが決まってから、オレはこれから先の未来がもっといい方に動き出したんだと嬉しくて、阿部くんに相談したくて何度も連絡をとった。

 それなのに、全然逢えなくて、電話もメールも返事がなかった。
―おめでとう これからも頑張れ―と、届いたメールが阿部くんから来た最後のメール。

 あの部屋の前で、何回か待っていても阿部くんは帰って来なかった。
 新しい恋人できた?
 違うか・・新しいも何も、オレはそもそも恋人じゃなかったのか。
 結局、全然逢えないままオレは街を離れた。


 久しぶりにこの歌を聞いて、オレはお父さんが言った言葉を思い出した。
「過去に戻ってやりなおすことはできないけど、未来は自分で作るんだぞ」

 別れ話なんてもちろんしてないけど、付き合って欲しいなんて言葉も言ったこともなければ、言われたことも無い。
 時々、抱かれている時に『好きだ』と耳元で囁かれたり、『好きだよ』と抱き返したり。本当に、それは熱に浮かされるようにお互いが発した言葉で、オレの『好き』は全部本気の好きだけど、阿部くんの『好き』を本気だなんて思ったことは少しも無かった。

 でも、あの頃に戻れるなら 阿部くんを離さないと思っても・・もう戻れない。
 でも・・お父さんが言ってたじゃないか。未来は自分で作れる。


 もう寄り道みたいな恋にさせなきゃいいんだ。
 オレは、オレの気持ちをちゃんと伝えることができるぐらい大人になったし、もしぶちあたって駄目だったとしても、ちゃんとオレの好きを伝えてから泣こう。
 次の恋なんてまだしなくていい。違う、次の恋が、今のオレの『恋』だから、ちゃんと阿部くんにオレの気持ちを伝えよう。

 まずは繋がらないとわかっている携帯のメールにメッセージをいれてみよう。
 それで駄目だったら、誰かに連絡先を聞こう。

 −阿部くん 逢いたい― 一言だけのメッセージ。

 
 送った直後に、ベルが鳴る。

 「三橋 俺も お前に逢いてぇ」

 数年ぶりに聞いた声は、確かに阿部くんの声だった。
 オレたちは再び始まろうとしている。今度はもう間違えない。

 そして、いつかこの歌を歌ってあげよう。
 あのシングルベッドが懐かしいよ。
オレと離れたあと、阿部くんがオレ以外の人を何人抱いたかなんてことは聞きたくないけど・・・けど・・
 あの頃、阿部くんがどういう気持ちでオレを抱いてたかだけはいつか聞かせて欲しい。
 
 オレは電話越しの阿部くんに、今日の風の香りが懐かしくてメールしちゃったんだよって言ったら、“俺もだ”と返ってきたから驚いた。
 それから
「さっき“シングルベッド”って歌をコンビニで聞いて。お前のこと思いだして、自分が酷い奴だって思って、それでもお前に逢いたくて・・」

 お父さん。未来が変わったよ。お父さん。ありがとう。

 オレが阿部くんの部屋を訪れて、再びあのベッドで抱きしめられたのはそれから数日後のお話し。その時、阿部くんの手が震えていたかどうかも・・

おしまい

13/7/20

この歌まじで好きです!昔から。

そして阿部と三橋が違う歌詞でぐるぐるしてる感じが・・自分的に好きです(笑)

 


♪拍手有難うございます♪♪ご感想頂けますと泣いて喜びます
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