作文〜3〜

□ぬくもり
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ぬくもり

 今年の冬はそんなに寒くない、なんてことを思いながら、つい最近恋人と呼べる関係なった阿部くんの半歩後ろをオレは歩く。
 寒くないけど、12月はやってきた。
 阿部くんと出会って2回目の阿部くんの誕生日もやってくる。16歳の時はまだ恋人じゃなくてただのチームメイト、その時はオレも阿部くんもこんな気持ちがあるなんてお互い気が付いていなかった。なのに、17歳の阿部くんの誕生日は恋人同士の二人。
 オレに恋人ができたのは初めてで(阿部くんはどうかは聞くの怖いから聞けない)、恋人の誕生日をお祝いするのも当然初めてだ。
 うつむいた顔を少し上にあげてみると、阿部くんの襟足が寒そうに見えた。マフラーをしてない阿部くんの首筋はちょっと寒そう。オレのマフラー貸してあげたくなるけど、きっと貸すなんて言ったら怒られるに決まってる。
 誕生日プレゼントにマフラーをあげるのもいいかもしれないと、オレはちょっと嬉しくなって“クスリ”と笑った。
 その声に反応した阿部くんがくるりと振り向いた。
「なに一人でにやけてんだ?」
 声が拗ねてるように聞こえる。瞳が優しくオレを見てる。
「なんでもないですよー」と、ふざけると阿部くんはガシっとオレの肩に手を回す。
「なに?俺に隠し事か?」
 友達同士が肩組んでふざけて小突きあってる。田島くんとか泉くんとか、二人がかりでそんなことされることもよくあるけど、阿部くんにこんな風に近寄られるとどうしていいかわかんなくて、ホッペに熱がキューっと溜まってクラクラしちゃう。
「あ 阿部く ん に オレ 隠し事ない っ」
 阿部くんの瞳にオレの顔が映るくらい近くってもうこのままヘタリと座りこみそうになってしまう。阿部くんは肩に回した手を離す気がないみたいでそのままボチボチ歩き出した。
「ならいいけどな。考え事しながら歩くとあぶねぇからな」
「う うんっ わかった」
 離してって言えばいいのに、言えなかったのはチラリと見えた襟足のせいだ。
 さっきまであんなに寒そうだったのに今は朱色に染まってる。
「阿部くん 今年 寒くない よ ね?」
 ヨタヨタと肩を組んだまま歩く。阿部くんももしかしたらちょっとだけ緊張してるのかな?そう思うと、ますますオレは緊張する。オレはきっと全身真っ赤だと思う。

「今は三橋がいるからあったけー・・な?」

 『な』の声がすっごく低くて甘くて優しかったから、オレは小さく頷いて思わず自分的にちょっとだけ隠し事的な誕生日の話しがするすると口からこぼれそうになった。
 でもグッと我慢してただ阿部くんの『な』の声を頭で反芻しながらコクコクと小さく頷いた。
 もう1回勇気を出して阿部くんの襟足をチラリと見たら、やっぱり赤く染まったままだった。
 「ふひっ」と思わず声を漏らすと、阿部くんがジッとオレを見る。
 「なんだよ」って、目でオレを見る。
 オレは心の中で誕生日プレゼントの候補であるマフラーを外そうと決めた。
 だって・・阿部くんの赤く染まったうなじをこの冬の間に再び見てみたいから。

 「阿部くんがいるから オレも あったかい です よ」

 蚊の泣くような声で振り絞った言葉は阿部くんの真っ黒コートの胸の中に消えて行った。
 やっぱり周りから見たらただの友達が同士がじゃれているようにしか見えないそれだけど、オレにとってはものすごく恥ずかしくて、ドキドキする出来事だった。
 髪の毛をわしゃわしゃと掻きまわされながら、オレの顔は阿部くんのコートの胸の中に固定される。

 阿部くんの耳も頬ももちろんうなじも、真っ赤に染まっていたことをオレを当然知らない。


 阿部くんの誕生日までもう少し。その日は少しでも阿部くんを独占したいなってぼんやり考えながらオレは阿部くんのコートに顔をうずめたまま匂いを嗅いだ。
 阿部くんのコートは冬の匂いがした。冷たくて、カサカサしてた。
 
 それからオレが知らなかったことがもう一つ。
 12月11日にもう一度、阿部くんのコートの匂いに包まれるってこと。
 それは阿部くんの17歳のお誕生日当日の別のお話し・・

2013/12/1



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