作文〜3〜

□Touch Me Kiss Me
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Touch Me Kiss Me

 長い片想いという期間が終わった。もちろん俺たちにとっていい方向に決着がついた。
 周りから見たらそれはものすごく焦れったく、もどかしかったようだ。本人、すなわち当事者である俺と三橋にとっては今となってみればなんというか・・甘酸っぱくもあり、苦しくもあり、とにかく息苦しい日々が積み重なったわけで、ようやくそれが実を結んだわけだから、なんというか今は本当に幸せだ。

 最終的に告白したのは俺で、それに頷いた三橋だった。
耳まで真っ赤に染めた三橋が上目遣いで俺の顔をチラリと見ながら、『オレも・・一緒の気持ちだ った』と、言われた瞬間本当は抱きしめたくてたまらなかったけど、さすがにそれはどうよと留まることができた。俺って紳士だなってつくづく思う。

 前置きが随分長くなったが、俺は今・・試されているようだ。
 
 そう、紳士な俺、西浦高校 野球部 副主将 阿部隆也は試されている。

 もう一度整理をすると。長い片想いに終止符を打ったのは昨日の帰り道。告ったのは俺、頷いたのは三橋。そう・・それはいいよな。
 晴れて恋人同士になったのは昨日の帰り道。しつこいけどまだ一夜・・いや、正確に言うと22時間45分前の出来事だ。
 なのに、今・・三橋廉は・・俺の恋人三橋廉は俺の右手にそっと自分の左手を絡ませてきた。そしてそのまま薄暗い公園に引っ張って、街燈が煌々と光るベンチを通りすぎ、背の高い木と木の間に身体を滑り込ませた。
 そこは薄暗いどころじゃなくて、暗い。正直ちょっと寒いし、足元に変な虫とかいねぇか?とかそんな感じだ。

「三橋?」
 俺の手はぐっちょりと濡れていた。それは、緊張というか、ちょっと恐怖と言うか・・今何が起きているのかわからない不安と言うか・・俺の知っている三橋廉じゃないような気がしてならない。
「阿部くん・・オレ たち 恋人 同士になった んだよ ね?」
 とろんと潤んだ瞳、真っ赤な唇。暗いはずなのにはっきりその表情が窺える。月あかりのせいか?だから、少し顔が青白く見えるのか?
 確かに三橋だ。でも、やっぱり昨日までの三橋とどこか違う。

「恋人同士 は たくさん触りたくなるって・・」
「へ?」
「き き き・・すとか・・キスとかしたくなるって・・」
「どどどどどどうした んだ 三橋?」
どうしたのは俺かと思うけど、やっぱり三橋らしくない。俺は三橋の肩を優しく掴んで半歩分距離をとる。いや、その距離がなかったらあまりに近い。近すぎる・・昨日は紳士だった俺だけどさすがに『恋人同士』の俺たちにその距離はもう抱きしめていいですよって言われてる・・え?言われてんのか?もしかして?そういうこと?いやいや、ちげーだろ!三橋がそんなこと言うわけねーだろ。でも、キスとか・・触るとか?
「ちょ 三橋 落ちつけ!いいか落ちつくんだ」(俺が落ちつけ)
「オレ お オレ 落ちついてるよ オレ 阿部くんともっとちゃんと恋人になりたいんだ」
「だからーそれはなんだよ!昨日だぞ。俺ら・・その・・両想いになった・・ってか。なったんだろ?」
すると三橋のでっかい目が、さらにでっかく開き俺を見て笑った。
「うおっ そうだよ 昨日だね。阿部くんがオレに・・その こここ こく は」
「うわーーいいって もういいって」
さすがにその話しはちょっと恥ずかしいし照れる。
「うひっ 阿部くん オレ ね 阿部くんのこと ね」
自分の話しはいいけど、三橋からは何度もでも聞きたい。
「う・・恥ずかしいね」
言わないのかよ!って突っ込みたいけど・・なんていうか・・もうどうでもいいとにかく・・俺ら・・今・・間違いなく・・その・・甘い・・
「やっとだぞ。気持ち隠して・・2年もだ」
「うん オレも一緒だ」

 遠くから虫の声がする。ひんやりとした空気が火照った身体に心地よい。

 甘ったるい空気に俺が漂っていた、その時三橋のひっくり返った声が俺の耳に突き刺さった。

「だから!だから阿部くん オレ阿部く んと キス した い んだ」

「俺もしたいに決まってんだろ!」
あ・・思わず出た本音。俺は思わず口を押さえた。
「だったらいいでしょ?ね?阿部くん・・オレ はじめてだけど・・はじめてだけど・・よろしくお願いします。」

 三橋は俺の前で目を閉じた・・
 
 1秒 さっきの半歩分距離を戻した。
 1秒 三橋の両肩に俺は両手を添える・・

 三橋の睫毛が震えてる。三橋の吐息がかかりそう。三橋の・・

 やっぱり駄目だ。まだ駄目だ。

「三橋・・ごめんな」
 俺はそう言いながら両手を軽く押した。
「阿部くん・・?」
しょぼくれた三橋に、俺は本音をぶつけた。
「俺 昨日告白にすっげーパワー使ったわけだ。で、おめぇから返事貰って正直まだ浮かれてる・・つか、浮いてるつか・・」
「う ん オレもだ よ?」
「で、妄想とかできねぇーはずの俺が・・何度も妄想したわけ。お前と・・その・・キスとかさ」
「うおぉぉぉ オレ オレで? 妄想・・したの?」
三橋はちょっと変なテンションだが嬉しそうなのでよしとしよう。
「した。で・・だからさ」
「う うん」
「だから・・もう少し やっとなった両想いの余韻に浸らせてくんね?」
「へ?」
「抱きしめたり、その触ったり、キスしたり・・そんでそこから先とかさ・・」
「先とか?」
「そう・・俺がはじめて妄想した三橋と一緒にする初めてのエロいこととかさ・・」
「うおっ阿部くん・・」
「そっ そういうの もう少しだけ先延ばしにしてもいいか?もう少しだけ・・な?」
「う・・オレからするのも?」
「うーん。そうだな。そういうの一緒の気持ちにならねーかな?」
「わか んない」
「とりあえず今日はさ・・三橋 手貸せ!」
三橋はいつものように俺の目の前に手を差し出した。
俺たちはまるでマウンドにいるように手と手を重ねた。
それからキュッとその手を握りこんでしっかりつないだ。
「今日はここまで・・じゃ駄目か?んで、手ぇ貸せって言ったら・・・今日からはこっちだな」
 俺はそう言いながら繋いだ手を子供のように振ってみせた。
 三橋はちょっと不本意そうな顔をしたように見えたけど、ブンブンと振った手を見て最後は嬉しそうに笑っていた。
「いつか・・だね?」
「そうだな いつかだ」
「それ明日かも?」
「そりゃねーだろ?」
「阿部くんはオレに触れたくないの?」
「触りてぇけど・・もう少し・・な」
 俺がどんだけいっぱいいっぱいなのか伝えたいけど、なんか途中からものすごく色んな意味で悔しくて、そんな気持ちを伝えてしまうと色々負けたと言うかなんというか・・とにかく、色々困った俺を今は隠したくて大きく手を振りながら三橋をこの薄暗い木陰から連れ出すことで精一杯だった。
 両想いの気分を味わいたいのも事実だ。でも、まだ衝動的に目の前にいる恋人を抱きしめる勇気もない。いや・・覚悟がない。

「阿部くん?」
不安そうに見つめられて、申し訳ない気持で胸がいっぱいになった。俺は三橋の手を強く握った。ごめん。でも、今はここまで。

「帰るか?三橋」

「うん」
 

 俺たちはまた歩き始めた。俺の覚悟が決まるまであと少し。
 もう少しだけこのままで・・もう少しだけ・・


おわり



「三橋昨日どうだった?」
「手 つないで・・」
「お!そんで」
「そんで・・終わり だったよ」
「やっぱ阿部ってヘタレだな?」
「なに?キスもしてねーの?阿部って駄目だなぁ」
「せっかく三橋はやる気になってたのになぁ」
「ごめんね。田島くん 泉くん 相談してたのに・・オレうまく阿部くんにキスしてもらえなくて」
「まぁ三橋のせいじゃねーだろ。阿部がな・・」
「阿部だなぁ」
「でも阿部くん オレでね うひっ」
「何?それ?詳しく聞かせろ!」

そんな話しがちらほらと聞こえてきたことを阿部だけが知らない・・

本当におしまい

2013/10/15




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