作文〜3〜
□嘘つきバッテリー
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嘘つきバッテリー
つきあってるの?って聞いたら
「つきあってない」って言われた
気になるのか?って聞かれたから
「少し」と答えた
つきあってないのにキスしたの?って聞いたら
「キスしてって言われたらするだろ?」って言われた
気になるのか?って聞かれたから
「わからない」と答えた
つきあうの?って聞いたら
「つきあわない」って言われた
気になるのか?って聞かれたから
首を横に振った
「三橋 本当は何聞きてぇの?」って言われたから
「阿部くんが誰かと付き合ったりするの オレ 知らなくていい」って
落ちてくる汗を拭いながら答えた
「俺がつきあいてぇ人のことも興味ねーってこと?」
その問いになんて答えれば正解なんだろう?答えることができなくて、オレはぼたぼた落ちる汗が染みこむアスファルトをジッと見つめる。
「阿部くんはキスして欲しいってゆわれたら、誰にでもキスするのか?」って今度はオレから質問してみる。
「言ってみれば?」って意地悪な声と同時に腕を引っ張られた。
「なに を?」
ドキドキしてる。心臓が破裂しそうだ。
阿部くんの胸の中にいる。逃げなくちゃとここを抜けだなくちゃと・・考えているのに身体は動かない。
「キスしてって言ってみれば?」
カァっと頬が熱くなった。
今度こそ本当に逃げなくちゃ。
それなのに、やっぱり振りほどこうとしてもその腕を振りほどくことができなくて、オレは阿部くんをきつく睨みつけた。
「おまえが本当に聞きたいことって何だよ?」
阿部くんの質問はさっきからわけがわからない。
質問が難しいんじゃなくて、意味がわからないんだ。
「だから オレは 何にも知りたく ないんだ」
頭が真っ白になって、訳もわからず阿部くんの足を踏みつけた。
「いてっ」と、イラついた声がするけど阿部くんの腕の力は増すばかりだ。
「正捕手の足踏んでどーすんだよ」と、言われてオレはようやく我に返る。
「ごめ なさい・・」
阿部くんの腕の中で、オレは俯いた。
「キス してねぇよ?」
掠れた声が耳に届く。
「え?」
オレはゆっくりと顔をあげた。不貞腐れた阿部くんの垂れた目が一瞬泳いだ。
「おまえ 本当に俺に興味ねぇの?」
一個前の“キスしてない”って方が気になって仕方無くて、オレは俺の腰に回ってる浅黒く焼けた両腕を強く強く握りしめた。
「キス してないの?」
挙動不審まるだしだ。恥ずかしいと思ったけど、最初に出た言葉はこれだった。
阿部くんはしかめっ面で、額に汗をぐっしょり掻いていた。
「キスしてない」
「さっきしたってゆった」
「あれ 嘘だから」
ちくんと心臓が痛んだ。嘘つかれた。
でも、そのあとにじわっとなにかわけのわからない感情が溢れ出した。
「嘘?阿部くんはオレにいっぱい嘘つく ・・」
「お前の方が嘘つきじゃん」
「え?」
嘘つきと言われて、オレは驚いた。それから、慌てて阿部くんから離れた。
さっきまで胸の中にいたのが嘘のよう。
オレと阿部くんの間は何もかもが嘘だらけだ。
「俺に興味ないんだろう?誰と付き合っても、俺が誰を好きでも・・興味ないんだろ?」
阿部くんの靴紐が解けてる。きっと、さっきオレが踏んだからだ・・。そんなことを考えながら阿部くんの足元を見ていた。
だって、阿部くんが言ってることはやっぱり「嘘」で、その「嘘」を最初に吐いたのはオレだから。
ぐるぐると「嘘つき」のリングがまわる。
「嘘 つき なのは三橋だろ?」
夏の終わりの匂いがする。秋が始まる音が聞こえる。
「卒業したらお互い嘘つかないって約束しようぜ?」
阿部くんはほどけた靴紐に気付いて、腰をかがめた。
そのまま器用に紐を結んで、上目遣いでオレの顔を覗いた。
ニヤリと笑った顔は、当たり前だけど阿部くんだった。
「その時 キスして欲しいってゆったら阿部くんはするのか?」
「嘘じゃなかったら するかな」
ポンポンと膝を2回叩きながら立ち上がり、グンと背伸びをする阿部くんはなんだかすごく大人に見えた。
「誰にでもするのか?」
阿部くんは悲しそうに笑った。悲しそうに笑いながら、オレの頭をくしゃりと撫でた。
「誰にでもしねーだろ?嘘つきには絶対しねぇかんな」
撫でた手が急に空手チョップのような手刀に形を変えてオレの頭を直撃した。
「じゃ 明日な!」と、言いながら阿部くんはオレの前から消えた。
明日はまたやってくる。12時間後にはもう学校のグラウンドの整備をしてるんだ。
卒業まで、夏はあと1回。卒業まで1年半。
先に嘘つきを卒業できるのは阿部くんだろうか?オレだろうか?
それでも、阿部くんが付き合いたい人を知りたくないって言うのは嘘じゃなかった。
オレを嘘つきと言う阿部くん。阿部くんを嘘つきだと思うオレ。
「キスしたくせに・・」
オレは自分の唇をゆっくり撫でた。
阿部くんはやっぱり嘘つきだ。
そう キスだよね?
空手チョップにクラリとした。その瞬間、オレの唇は確かに何かに触れた。
一瞬、何かに触れた。
そう、あれは阿部くんの唇。
嘘つきにはしないと言ったくせに。
「キスだったよね」
オレはもう一度唇に手をあてた。それから阿部くんの真似をするようにグンと背伸びをして前を見た。
オレたちは嘘をつき続けよう。
オレたちは嘘つきバッテリー。
オレは歩き出した。秋に向かって、明日に向かって・・そして素直に想いを伝えることができる日にむかって歩いてゆく。
おしまい
13/8/7
なんかホント色々すみません
よくわかんない感じですみません。
日記でも謝ります。
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