涙と花片。

□蔦。
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生まれて初めて耳にする



あの拙い歌声は



瞬きを繰り返す



華の息吹より不確か・・・。















‡蔦(つた)。‡















僕の掌の中に在る

2つの破片(かけら)。



守れる自信は無いけど

大事に抱えている。






震える脚を必死に抑えて

壊れてしまわぬ様に

そっと・・・唇を寄せた。





「風は今も、


優しい嘘で


貴方を包んでいるのかな?」





落としかける涙を堪えた。










辿り着いた 道の先に

光は届かず

ただ虚しく陰を残す。





「掛け替えの無い人・・・


僕を忘れて


笑っていてくれるかな?」





振り払う事しか

出来なかった掌。

あの日

総てが色を失くして・・・





思い出(はしご)を下って



痛み(やみ)に墜ちた。










「生きて行くよ?





僕は歩き続ける・・・





残酷な毎日を笑い飛ばすよ。










例え其れが





紛い物の世界で在っても・・・」




















私の髪を、風は柔らかく掠っていく。

覚えたての歌が記憶を連れ去って、新しい傷みを覚えていく。



彼は私を置き去りにした。










現実から逃げ出した彼の脚は、途方も無い残像に苛まれて・・・





「・・・ただ、


愛しただけなのに・・・」





私の咽を伝って生まれた嘆きは、ただ風に流される。
呼び覚ます事の無い名前さえ確かじゃない。





「・・・一緒に・・・



生きて行きたかっただけなのに・・・」





落とした涙は、遥かな空にもなれなかった。





fin。

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