キリリク

□好きな人
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外歩いて数分。
最悪。目の前からは一番見たくないカップルが。


「お、沢松!」


気付いた天国が俺に声をかけてくる。


「よう」


右手を上げてそれに答えて隣の犬飼に目をやるといつものように睨んできやがる。

大人な俺は気付かないふりをしてやってまた天国に視線を戻す。


「デートか?こんなクソ暑いなか」

 
暑いのは気温だけで充分だ。

大体何でんなトコにいんだよ、部活はどうした。


「部活が午前で終わったからちょっとコゲ犬と遊んでやろうと思ってな〜」


「バカ猿が家に来たいっつったんだろ」


へぇ。天国から。家に。

あー…どんどん女々しくなっていく。


「ふーん」


興味ないふりで返事して、吹っ切れるまで時間掛かるな、なんて再確認。


ん?なーんか違和感…


「どうかしたか?」


問い掛けてみる。

痛そうっつか、辛そうっつか…
曖昧だけどいつもと違う気がする。


「あ?何が?」


返事の前に表情が一瞬強張った。

犬飼は何言ってんだって顔で俺を見る。


…大人な俺だけど少しだけ大人気ない事をしよう。


「天国〜。この俺を誤魔化せると思ってんのか?」


コイツを名字じゃなくて名前で呼んでるのは俺だけ。

そう、犬飼…お前じゃなくて俺なんだ。


「天国、熱でもあんの?」


名前を呼びながら目は犬飼を見て、俺からの小さな復讐。

でも本当はそんな事よりも天国が心配で。


「あーもう。さすが鬼ダチ…軽くダルい」


観念しましたって白状する。
 
ほら、小さな変化に気付ける程お前を見てたんだ。


「…何で黙ってた」


驚いたって顔は一瞬。
すぐに心配そうな顔。


「別に大した事ねーよ」


「体調悪いなら帰れ」


怒った声はコイツを大事にしてるから。



あーあ。

認めるしかねぇじゃん…


「犬飼さんよぉ…」


俺の呼び掛けに視線だけを寄越す。


「そいつ、弱ってる時一人にしちゃ寂しがるんだわ。今までは俺が一緒にいてやってたけどこれからはアンタが一緒にいてやって」


感謝しろよ。
大切なポジション、一個譲ってやんだから。


「は〜あ、面倒臭い看病から離れられるとは良かったぜ」


「あぁ!?んだと沢松!」


「おい、ちょっと」


吠えてる天国をシカトして犬飼を呼ぶ。

そんで奴には聞こえない様に小声で一言。


「お前見る目あるぜ?アイツの鬼ダチの俺が保証する」



天国をよろしく。



「じゃーな」


呆然としている犬飼とわけ分かってねぇ天国を背に少し速めに歩く。



やっぱ大人だな〜俺。

さすがハンサム様だぜ、去り際まで格好いい。



ちっくしょー…
どっかに可愛い子いねぇかな…






【好きな人-終-】
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