シリーズ

□噂のあいつ
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「わぁ〜!先生子津君のボール打つの?」

はい、とバッドを差し出し言ってくれたちびっ子…誰?
ユニホーム着てるんだし野球部だよな。
小学生だと思った…

「僕は兎丸比乃!子津君と同じ1年だよ」

やっぱり子津も1年なんか。

そしてどんどん話も進んでんな。


子津もマウンド立ってるし…
やるしかねえってか。久々だ、打てるかな。

おうおう、騒ぎを聞き付けてギャラリーが多い。
ま、全部野球部の野郎共だけど…


後ろにはいつの間にかキャッチャーが準備万端で構えている。

視線を真っ直ぐ前に向けると子津がさっきの戸惑った表情とは遠い真剣な目を俺によこしている。

俺も渡されたバッドを構える。
うん、スーツなんか着てねぇで良かった。


バッドの重量感に懐かしい感覚が甦る。
意識をピッチャーに集中させる。




しなる腕から放たれた白球。



い、っけ…!




青空を突き抜けるボール。
これ、結構いくんじゃね?
俺が打ったボールは俺と、多分周りの予想を上回り校舎の時計にぶち当たる。


ザワついていたグラウンドが静まり返る。

寂しいんだけど。



「時計に…当たった…」



誰かは分かんなかったけど一人が呟いた。
するとまたグラウンドが騒がしくなる。


「さっ猿野先生!」

「はい!」


凪先生が目を見開いて俺を見る。
な、なに?


「時計に!時計に当たりました!!」


「当たり…ましたね」


「凄い事なんですよ!?あの時計二つ穴がありますよね?一つは今猿野先生が、もう一つは20年前…十二支を夏の甲子園3年連続優勝に導いてくれた伝説の大打者、村中選手が開けた穴なんです」


村中といえば現役時代通算本塁打593本、ホームラン王5回の選手で、三振しても絵になる程の凄みのあるスイングでミスターフルスイングと敬意をもって呼ばれていた男。

十二支が母校だったのか…


凪先生は尚も続ける。


「何百もの部員達がその伝説に挑みましたが誰一人、校舎までボールを届かせる事は出来なかったんです」
うっそ〜…俺、天才?



 
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