スターセイバーズ〜虹杖の記憶〜

□第弐章
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「今日から転校してきた、月見未来(つきみみらい)さんと、月見勇(つきみいさむ)さんよ。仲良くしてあげてね!」

 瑠洸学園(るこうがくえん)に赴き初日。担任であろう先生の明るい声が、中高生の集まるミーティングルームに響いた。瑠洸学園は中学校、高校とあるが、片方は附属中学として成り立っている。そのため学園自体が占める面積はかなり広く、いくつかのスポーツが並行してのびのびと遊べるほどの運動場、附属中学と高校の間にある噴水が目印の休憩広場、そして学校といえばお馴染みの学食ルームと、人によってはまさに理想的な環境が整っていると言っていい施設もしっかりあった。学費や寮などのお値段が気になるところだが、派遣という形で入学した未来と勇が気にするところではない。むしろこの豪華そうな設備の整いすぎた学園へ入学させることができる王家の関係者は一体どれだけの資金を合わせもっているのかと不思議に思うほどだが、ここは突っ込むべきところではないのだろう。

「よ、よろしくお願いします……!」

 開口一番、注目を浴びる中で未来はそう挨拶し、頭を下げる。黒髪をきちんと結ってはいるが、それなりの長さのツインテールになっていた。この学園に制服は存在せず、それぞれ学園生活をする上できちんとした服装であれば自由。そのおかげか、未来は自分が割と気に入っている赤い長そで、そこから垂れる黄色いネクタイのような上着―――そして白と茶で構成された膝までの長さのスカートで学生たちの前に立っている。

「よ、よろしくです」

 勇もまた慌てつつ、姉に倣うようにお辞儀をする。ショートウルフヘアに水色を基調とした上着、そして茶を基本に橙のおしゃれなアクセントのついた長ズボンをはき、頭を下げた後に姉のほうをちらりと見やる。

「お姉ちゃん緊張してるでしょ」

「勇だって緊張してるくせに」

 新緑の瞳がお互い見つめ合う。だんだんにらみ合いになってきている中、その様子に目もくれず、この場を指揮する先生が着々と話を進めていく。

「それじゃ、部屋を案内するわね」

「「へっ?」」

 突然の先生に声をかけられ、にらみ合いで話を全く聞いていなかった二人は、ただ呆然と空返事を返す結果となった。





 未来と勇の年齢差の影響から二人は途中から別れ、それぞれの教室へと向かう。現在の時刻を見るとホームルームが始まる数分前といったところか。未来は先生に教えられた教室に歩いていき、勇は附属中学の校舎の中へ入っていった。

「……ふぅ」

 こういった経験はあまりないため、なぜか変に緊張する。教室の中では既に新入生の話が広まっているのか、わいわいがやがやと楽しそうな声が飛び交っている。入学―――というより正式には転入という形なので、正式な入学式に参加していない未来と勇は、この学園の生徒たちにとっては『転入生』という認識になっていた。

「……よし」

 気を引き締めるような声を小さく呟くと、未来は教室のドアを開ける。そこには女子グループがそれぞれ椅子に座って談笑したり、窓際で男子が景色を見ていたり、様々な私服に身を包んだクラスメイトらしき生徒たちがいた。その中に一人、未来と同じように黒髪ツインテール―――しかし彼女のほうがいくらか長く、上着は紫でシックな雰囲気、下は白い半ズボンでマロン色のロングブーツを履いている少女にふと目がいく。彼女はほうきで教卓周りを軽く掃いていたようだが、未来と目が合うと笑顔を見せながら元気よく声をかけてきた。

「やあ、おはよ!」

「お、おはようっ」

 なんとか未来も笑顔で挨拶を返す。すると未来よりも少し背の高い彼女は、更に満面の笑みになり、ほうきを持ったまま空いた手を胸に置いた。

「はじめましてだね! あたし、健藤美央(けんとうみお)って言うのよ。よろしくね!」

「あ、うん……よろしく、健藤さん!」

「美央でいいわよ〜、なんか似たりよったりなツインテしてるんだし」

 そう言いながら美央はくすくすと笑う。彼女は元気のよさで、このクラスの中ではムードメーカーとして活躍し始めているようだった。入学したのは未来よりも少し早いだけだというのに附属中学にでも通っていたのか、すっかり学園生活に慣れ親しんでいるような余裕の表情を見せている。そんな彼女の元気よさについ未来まで元気をもらい、同じようにくすくすと笑ってしまった。そうこうしている間にホームルームの時間を告げる学校のチャイムが鳴り、クラスメイト達はそれぞれ自分の席についていく。担任の先生が教室へ入ってくると、未来は先ほどのミーティングルーム同様自己紹介を軽く済ませ、指示された席へと向かい、着席した。

「さて、早速今日のホームルームを始めるぞ」





 基本は学園での生活なので、必要な教科書やノートはどこから調達されたのか分からないまま、指示されていた寮から持ち出したそれを使って授業を難なくこなしていった。
 そしてお昼。休み時間ではいろんなクラスメイトからどこから来たのか、前はどうしていたのかなど様々なことを聞かれたわけだが、当然相手は魔法やファンタジー世界の存在を知らないマン人なのでそういった真実を話すわけにもいかず、ある程度ごまかしでなんとかその場しのぎをするに至る。マン人に話をしたところで信じてもらえるわけがなく、仮に信じたとしたらそれはそれでパニック状態に陥る可能性もあるため、彼らに魔法やファンタジーに関係した話をするのは原則禁じられていた。それが幸いしてか、固いガードをされてるような感じを受けたらしいクラスメイトはさすがにお昼になると近寄ってくる人はいなくなり、それもそれでどこでご飯を食べようかという悩みにぶち当たるわけだが―――。

「未来ちゃん!」

 そこへ声をかけてくる生徒がいた。声をかけてきたのは、朝一番に挨拶をしてきてくれた、ムードメーカー(仮)の美央だった。

「ね、一緒にお昼食べない?」

 その元気さに思わず若干の威圧感を感じてしまいそうだが、本人にはその自覚は全然なさそうだ。食べるものとしては先ほどと同じくなぜか調達されていた弁当を持ってきていたのでその辺は問題ないのだが、場所は教室にしようか、それともどこか落ち着いて食べられる場所にしようか悩んでいたので、彼女の誘いはかなりありがたかった。

「うん、じゃあ……」

「オッケー、なら落ち着ける場所で一緒に食べよう!」

 うん、の一言で肯定と取ったのか、美央は弁当を持ったままの未来の手を握り教室を出る。若干振り回されるような形で未来は小さな悲鳴を上げつつ、落ち着いた時には噴水広場の前に到着していた。

「やっぱりここが一番落ち着くわよね〜」

 そう言いながら美央は満足そうに空を仰いでいる。未来はいきなり走られたため少し息切れはしていたが、彼女に倣って空を仰ぐと綺麗な青空が視界に映った。雲も若干見えるが気にするほどでもない晴天だ。温度も噴水の前だからかほどよい涼しさで、人気は一応あるが落ち着ける場所であることに間違いはなさそうだ。

「さ、食べよ!」

 美央に先導されるがまま、噴水広場の椅子に並んで座り、お互いに弁当を開ける。

「わ、すごい! それ未来ちゃんが作ったの!?」

「え? えっと、いやそういうわけじゃなくて……」

 未来が受け取っていた弁当の中身は割と豪華で、『これから頑張りなさい』と言わんばかりの豪華な食材で調理されたおいしそうな栄養満点の料理がつまっていた。美央はいつも自分の手作りらしく、その圧倒的な差に彼女から見た未来の弁当はキラキラ輝いていた。

「てことは専業主婦とかそういうのがいるとか? いやうーんでもまぁこの辺ってやっぱそういうお嬢様系統とかいてもおかしくないし、ますます気になる……」

「いやいや、ほんとにそんなんじゃないって」

 苦笑混じりに否定を繰り返す未来。常々スターセイバーズに所属していて謎と思うことがここでもあらわになり、今後の行き先を若干不安に感じ始める。勇にも同じような弁当が配給されているはずだが、おそらくそれは姉である未来が作ったと言われれば納得される可能性もあるだろう。むしろ勇ならそう言って切り抜けるような気しかしないので、今後附属中学の生徒に何か聞かれるのではないかとそっちの不安まで押し寄せてくる。

「あ、そうだ。そういえば話変わるけど」

 そんな時、美央が何かを思い出したように話の趣旨を変える。ご飯をぱくっと口に運び咀嚼しながら考え、思い出したところでごくんと飲み込み、未来のほうに顔を向ける。

「ここはね、なんだか知らないけどよく幽霊が出るって噂なの」

「幽霊?」

 その言葉に美央は頷いた。少しだけ面白い情報を提供する探偵のような顔つきになり、その話の続きを語り出す。

「そ。深夜になると学校中をうろつきまわって、何かを探しているみたいなの。クラスの子が忘れ物取りに教室入ろうとしたら目撃したらしくて、急いで帰ったらしいんだけど」

「へぇ〜……」

 そもそも忘れ物を取りに行くためとはいえ、なぜ深夜なのかは謎なことこの上ないが、同時にその幽霊の話には未来は少し引っかかるものがあった。

(幽霊ねぇ……魔物の可能性あるかもしれないし、深夜帯に行ってみようかな)

「ね、未来ちゃん。今日の深夜、学校行ってみない?」

「うん……って、えぇ!?」

 真剣に考えていた時にふっと美央の提案に驚いた未来。ついつい彼女を二度見してしまう。

「ちょっちょっと待ってよ美央」

「大丈夫! いざというときはあたしがついてるって!」

 そう言って美央は自分の胸を叩く。何が大丈夫なんだろうか。未来の中ではその幽霊は魔物の可能性もあるため、できるだけあまり美央のようなマン人を巻き込みたくはないというのが彼女の中にある。しかしこの謎のやる気と自信はどこか彼女はほんとは大丈夫なんじゃないかという気さえ起こしてしまう。結局未来は曖昧な返事をしてしまい、その後は平和に午後の授業も済ませて下校した。



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