創造への奇跡book5

□神童聖女の御告
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「……ッくそ、痛ェ」


口に残る血の味に苛つきながら自室へ帰る。
長らく自動ドアとしての役割を失っていたソレは、いつの間にやら本来の機能を取り戻していて。シュ、という控えめな音の後に見えたのは、1つ分増えた簡易ベッドとそれを運んで来たのであろう人物。


「あれ、派手にやったね。治そっか?」
「、G」


未だ慣れない姿に一瞬怯む。そんなオレを予想していたように笑う姿はなんとも自然体で、とても奇跡の生還を果たしたコクヨウ玉虫などには見えない代物だった。

温かなモノが身体に流れてくる間、オレはこっそりと室内を回し見る。レツはいない。さっきまで居たような痕跡もない。クエストにでも出ているのか?そう考えているのを読み取ったかのように、穏やかな青年から「レツはセネル達とクエスト中だよ」と言葉が降ってきた。

(セネルと、)

同行者の名を聞いて、わずかに身体が強張るのを自覚する。
オレとケンカ別れをしたあの日から、レツとセネルが二人でいる姿をよく見かけていた。もともと仲は良かったと思うが、しかし不自然に感じるほど一緒にいる二人。もやもやとした何かがオレの中から湧き上がってくるのと同時、しかしながら今レツと顔を合わせても何を話していいのかわからない。不在であってくれたことに安心している自分もいる。


(今のお前は、ちゃんとレツが見えてんのか?)

ティトレイの言葉が、今も強く耳に残っている。

(もう、貴方を家族として見られない)

悲しい言葉が、脳裏に焼き付いている。




「……オレは、レツを苦しめてたのか」


ポツリと落ちた。

ベッドに腰掛けるオレと、その傍らに寄り添うようにして立つG。その僅かに噛み合わない視線が、今は有り難い。

Gはじっと、何か言いたげな表情になる。
そちらを仰ぎ見れば、治癒は終わり、と頭に手を乗せられ撫でられた。


またも噛み合わなくなる視線。

今度は少し、居心地が悪い。

その感覚を感じ取ったのか、クスリと小さな笑い声が聞こえて。
それに合わせて、ふ、と。その思いの外大きな掌が離れて行ったかと思えば、まるで幾つも歳が離れた年長者であるかのような穏やかな笑顔を携えた彼がそこにいた。


「僕ね、ずっとずっとスパーダと話がしたかった。今から付き合ってくれるかな」


まるで当たり前のような自然な流れで、Gはオレの手を取り立ち上がらせる。

せっかくだから街に出ようか。そう声を弾ませる青年に対し、オレはまるで子供のように「自分で歩ける」と手を振り解くしかできなかった。






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