創造への軌跡book4

□受け継がれるもの、無くしたいもの
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バンエルティア号ホール。
クエストカウンタもあるその場所は、常に人の往来が激しく、賑やかさを保つ場所。

Gの遅めの朝食を終え、何とはなしにホールを横切っていた私達二人の耳に、低く緊張した声音が届いた。


「切り株から、ウズマキフスベのドクメントの欠片を採取した。このドクメントの残りを埋めていく必要がある」


生物学者であるというウィル・レイナード。彼は先日暁の従者が命懸けで運んでくれたという切り株を寝る間も惜しんで解析していたそうで、自慢の体格に似つかわしくない黒ずんだ顔色でギルドリーダーに報告している。

世界の脅威となる、ルミナシアと異なる世界ジルディア。ジルディアとして芽吹くはずだった私の妹ラザリスは、今も必死にもがき苦しみながら、ルミナシアの生命の場を掴もうと狙っている。
しかし、彼女が生きていくにはこのルミナシアは理が異なりすぎているから。ラザリスと共に生きれらる未来のために、なんとか封印次元を展開させて彼女を揺り籠に再び連れて行かねばならない。

塩水晶もツリガネトンボ草もドクメントは集まった。残るは一つ、今はもう絶滅してしまったとされるウズマキフスベ。これさえ手に入れば、ラザリスを再び父と共に守り育てていけるはずで。


「ケイブレックスという魔物が、ウズマキフスベを常食していたという記録がある。ケイブレックスに、食べたウズマキフスベのドクメントがあるかもしれないんだ」


生き物は、他の生き物と密接に関わり合い、生命の連鎖を起こして生きていく。それはヒトでも、虫でも、魔物でも皆同じこと。

生命はずっと、受け継がれていく。


「賭けてみたいんだ。この依頼を、受理して欲しい」


ウズマキフスベの生命はケイブレックスに受け継がれ、ドクメントの一部となり、共に生きているはず。アドリビトムの誇る研究班と彼女は、その結論にたどり着いた。


「…きっと、大丈夫。未来は繋がってるはずだよ」


世界の記憶が受け継がれた証を胸に持つ少女、カノンノ・グラスバレーは微笑んでいた。何も不安など無いかのように、そこに私達とラザリスの未来が重なって続いていることを疑いもせず。
その笑顔は、私達に勇気をくれる。


「…わかりました、依頼を受理しましょう。クエストに向かってもらうメンバーを決めなければね」
「よろしく頼む」


アンジュ姉さんは静かに頷き、在席するギルドメンバーの確認を始めた。

場所はコンフェイト大森林。
ウィルの表情から察するに、封印次元展開のためのドクメント構築に忙しい研究班は、おそらく今回のクエストはパスだろう。
そして現在別の依頼で席を外しているメンバーを確認し、万に一つラザリスの妨害が入っても耐えうるだけの戦力があるかどうかを考え。


「レディアント・ドライブを身に着けていると安心なんだけど…。キールくんとGくんには残ってもらいたいから、やはり頼れるのはレツとスパーダくんかしら?」


こちらに寄せられる視線に思わず肩が跳ねた。重要なクエストに私とスパーダが選ばれることなどよくあることなのに、どこかでそれを避けたいと思っていた私がいて。

いつもなら二つ返事で引き受ける私が言い淀んだことに、アンジュ姉さんと、隣に立つGが訝しげな瞳を向けてくる。
何と応えればいいのか、果たして今の私達は共に戦えるのか…。そんな不安が溢れ脚が竦んでしまいそうだった私の元に、今しがたクエストから帰ってきた様子の白が歩み寄って来た。


「ケイブレックス、か。随分骨の折れるヤツを相手にしなくちゃならないんだな。……アンジュ。レディアント・ドライブなら俺もできる。俺が行こう」
「あらセネルくん。貴方も身につけていたなんて、心強いわ」


ウィルから魔物の資料を受け取り、ざっと目を通す。そして「この手の魔物は、懐に入りこめば楽に投げられるだろ」などと言い、私に同意を求めるべく振り返った。

その瞳、その仕草に。
昨夜見た悲しみや熱量はどこにもない。

あるのはただ、私の焦りを感じ取り守ろうとしてくれる優しさ…だろうか。


「…そうだね。よろしく、セネル」


私はその優しさに甘え、何事もなかったかのように振る舞うだけ。






受け継がれるもの、無くしたいもの




(兄の視線が突き刺さる)



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