創造への軌跡book4

□世界がまた始まる
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「クィック、クィック」


暁の従者を見送り甲板に戻ると、クィッキーが元気に駆け回っていた。いつもであれば、その隣にはクィッキーに負けないほどの元気な笑顔を携えた、可憐に舞う少女の姿があるはずなのだけれど。


「メルディ?なんか元気ないみたいだけど、どうかした?」
「レツ、」


どこかモジモジしているというか、手持ち無沙汰に時間を潰しているようにも見えるメルディが、ぼんやりその相棒を眺めていた。急に話しかけられて少し驚いている様子であるが、何か話したいことでもあるようで。
あうあうと小さな口を開いては閉じ、その瞳を泳がせる。


「えっとな、あのな、」
「うん」


ゆっくりと彼女の元へ近づけば、私に倣うかのように主人の側へ戻ってくるクィッキー。鼻をフンフンと鳴らし、彼の方は元気が有り余っているようにも見えた。
つい、とメルディの視線が私の右肩の方へ動く。そこはいつも彼がいた、しかしもう決して使われることのない定位置。

その眼差しで、気付く。


「……そっか。Gが帰ってきてから、ずっとあの二人、一緒にいるね」


シフノ湧泉洞から帰ってきてからというものの、Gの短剣の解析をしたいだとかで武器を扱うホタテブラザーズの所へ二人で赴き、パジャマパーティ中も延々二人で何事かを議論していた。果たしてまともに眠れたのか怪しい今朝も、早々にキールの自室にこもってしまっていて。
キールと同室であるはずの彼女が遠慮して部屋を出てきてしまうほどだ、まだまだ話したいことは尽きていないのだろう。


「キール、とっても喜んでたな。今もすっごく楽しそう………」


ゆらゆら、と瞳が揺れる。
クィッキーは小さく欠伸をして毛並みを整えている。
色素の薄い柔らかな髪が、甲板の強風に煽られてぶわりと舞い上がった。

んぐ。

まるで絵画のような一幕には到底相応しくないうめき声が、私の口から漏れ出てしまう。


「…今すぐキールのとこ行こ?私もGと全然話せてなくて寂しかったんだ」


いつもの満点の笑顔を封じ込めて、悩ましそうに、でも相手のことを想ってじっと偲ぶ彼女があまりにも愛らしくて。私は心臓が握りつぶされるような感覚を味わう。

キール、罪な男だ。
こんなにも可愛い彼女にヤキモチを焼かせるなんて。そして、それでも彼のことを大切に想い我慢してくれる聡明な優しさを、その一身に浴びているなんて。




「―――ズルすぎるぞキール!!!」
「うぅわぁ!な、なんだ!?」


扉を蹴破らんくらいの気持ち(正確には自動ドアなので不可能だ)でキールの部屋に殴り込みに行き。
半ば無理やりGを引っぺがして、そこからようやく連れ出したのだった。





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