創造への軌跡book

□大きく息を吸って、
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次の日。

今日は朝から不良が起きてきて、一緒に朝食作りを手伝ってくれた。そしていつもの朝クエストをこなし、バンエルティア号の掃除。

その後いつも通りに昼食の手伝いに行こうとすると、それをスパーダが止める。



「おいレツ、クエスト行こうぜ」

「え?でも手伝いが…」

「いーんだよ、元々お前は当番じゃねェし」



ズルズルと引きずられホールへ行くと、ソコには笑顔の姉さん。仲良くやってるようね?と微笑みかけてくれる。



「アンジュ、銅の採掘クエスト行ってくる」

「わかったわ。同行者はレツだけ?G君は?」

「あ、Gは今キールと一緒に勉強してるよ」

「じゃあ2人なのね。了解しました、いってらっしゃい?」



笑顔で手を振る姉さんを背にして、バンエルティア号のタラップを降りる。さぁブラウニー坑道だ、と意気込み出発しようとすると、また坊ちゃまに引き止められて。

腕を掴まれ、坑道とは逆方向に引っ張られる。こっちには確か…街があった筈だ。



「ちょっと坊ちゃま、クエストは?」

「もう終わった」

「は?」



ズカズカと、会話しながらも街に向かって歩いていくスパーダ。クエストに出た筈なのに、何をしているんだこの不良は。そう思って問いかけると、何とも予想外な返事。

「もう終わった」?その意味がわからなくて首を傾げていると、坊ちゃまが肩に掛けた道具袋に手を突っ込んで、何かを取り出した。



「おら、銅。10個は軽くあンだろ?クエスト完了、ってな」

「……って事は、最初から持ってたんだ、不良。すぐ姉さんに渡しちゃえばよかったのに」



私がもっともな事を言うと、不良は呆れたように笑った。お前って意外と真面目だよな、なんて声が聞こえる。



「いいンだよ。急ぎのクエストじゃなかったし、仕事はしてンだから。こうでもしねェと街なんか出ねェだろ?お前」



ニシッと、いたずらが成功した子供みたいに笑う。それに何だか毒気が抜かれて、文句を言う気も失せてしまった。

街、か。そういえば確かに、私は買い出しの時くらいにしか立ち寄らない。



「ンじゃ、適当にぶらつこうぜ。……ま、とりあえずは雑貨屋だな」

「雑貨屋?何か欲しいのあるの?」

「まーな。お前の部屋……ってか、もう俺の部屋でもあるのか。とりあえずあの部屋、寂しすぎンだよ」



フラフラと坊ちゃまが歩いていくのについて行けば、そこには可愛らしい外装の雑貨屋さん。この街には必要最低限の物しか買いに来なかったから、こんな可愛いお店があるなんて知らなかった。

不良はお店にためらいなく入っていく。それを見た周りのお客さん達が一歩二歩と距離を置いていて、思わず笑ってしまった。



「あ?何笑ってンだよ」

「いや、端から見ればアンタって本当に不良なんだなって。実はただの坊ちゃまなのにねー」

「まだ言うかお前は…。いいから、何か欲しいモン選べよ」



さすがに店内だからか、いつものように大きな声で怒鳴ったりしない。意外とマナーの良い不良に驚きながらも、少し疑問。



「欲しい物?坊ちゃまが何か欲しかったんじゃないの?」



てっきりあの部屋に不便があって何か買いに来たんだと思っていた。すると「俺がこんなファンシーなモン欲しがると思うか?」と呆れながら聞いてきて、「そんな趣味かと思った」と返してあげる。



「ンな訳ねェだろ…。とにかく、何か欲しいモン言え。あんな寂しい部屋俺が耐えらンねェ」



坊ちゃま曰わく、私の部屋は生活臭がまったくしないらしい。いかにも借り物ですみたいなオーラが出ていて、お前ももう少し贅沢しろよ、と怒られてしまった。

……よくわからないけれど、私の事を気にかけてくれているのだろうか?

別にいいよと言ったのだけど、兄貴モード全開の坊ちゃまはなかなか引き下がらない。しばらく粘ったものの無理っぽかったから、今回はお言葉に甘えさせてもらうことにした。2人で店の中を歩き回り、様々な物を見て回る。



「お、この人形なんかどうだ?この間抜けな顔なんかルカちゃまそっくりだぜ!!」

「えー?ルカのがもっと可愛…い、」

「あ?何かあったか?」



バチリ。その子と目が合った気がして、またまたその子から目が離せなくて。気がつけば、私の手はその子の頭の上にあった。



「白兎のぬいぐるみ、か……」



ポソリと呟かれた言葉にハッとし、慌てて手を引っ込める。私は頬に熱がたまっていくのを感じた。



「あ、いや、……ただ、手触りどんなのかなーって思っただけだから。…さー、今度は向こう見よう、向こう」

「…ん、わかった。ちょっと待ってろ」

「向こう行こうってスパーダさん!!ちょ、買わなくていい!!買わなくていいから!!」



白兎をひっつかみレジへ行こうとするスパーダを止める。ちょっと待て。そんな大きなぬいぐるみ値段が張るだろう。もっと気持ち程度のでいいから!!てかそもそも、買わなくてもいいのに!!

私が坊ちゃまから白兎を奪い取り元の位置へ戻すと、実に不思議そうな顔で私を見てきた。



「でもお前、コレ気に入ったンだろ?」

「いいから、そんな、ね?そんな贅沢、」



不良貴族の腕をガッチリホールドしながら必死に訴える。すると坊ちゃまは「あぁなる程、」と呟き、またまた兄貴モード全開のニヤリ笑いをくれた。



「お前もたまには甘やかされろ。…俺がアンジュに言いつけられた事、なんだったっけなァ?」

「……仕事し過ぎないように見張れ、でしょ?別に関係ないじゃん」

「そーそー。つまりは、息の抜き方・甘え方を知らないレツがぶっ倒れないよう見てればいい訳だ。それすなわち、俺がお前に息の抜き方・甘え方を教えてやりゃあいい…って事で、買ってくる」



姉さんの名前が出ると弱いということを知っているからか、姉さんからの指示をねじ曲げ納得させてレジへと向かった。……いや、ねじ曲げてはいないのか?元々姉さんの意図がわからなかった以上、ああやってもっともらしく言われると言い返せない。

サラリと勘定を済ませて戻ってくる不良。じゃあ次行くかーなんて言いながら歩く後ろ姿。慌てて服の裾を引っ張り歩みを止めさせて、一応、お礼を言った。




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