創造への軌跡book

□隠された里
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「先程の気配はこいつか」



クラトスの後について行くと、少し開けた場所に出る。そしてクラトスの視線の先には―――不思議な模様の入った、石像。しかしただの石像ではなくソイツは生きているようで、ジッとこちらを睨みつけていた。



「ねえ、こいつと戦うの?」

「恐らく、門番のつもりだろう。こいつを倒さねば、ミブナの里へは行けそうにないからな」



門番か、面倒だな。そう私は言おうとしたけれど、何故かハロルドは嬉しそうに杖を振り上げて。



「やっぱり〜!これが忍びの技術なのね♪面白そうだから、相手しちゃうわよ!」

「楽しそうだねハロルド…。ま、仕方ないか」



ウキウキ気分で術をぶっ放すハロルドに、前衛職としては多少危険を感じつつ。そのおかげなのか、案外早々に片付けることが出来た。

たいして息を切らしていない様子のクラトスが、ゆっくりと剣を収める。その横では、未だテンションの高いハロルドがさっきの魔物の死体を眺めていた。


ぽひゅん!!


しばらくすると、ソレは間抜けな音を立てて消えてしまう。



「倒したら、跡形もなく消えちゃった。と、言う事は、呪術的な存在ね。これは興味深いわぁ……グフフッ!」

「そいつは人工精霊だ」

「人工精霊〜?」



ハロルドのほぼ独り言に近い分析に、意外にもクラトスが答えを教える。人工、精霊。聞いたことのない言葉に私とマルタが首を傾げていると、入り口の方から誰かがやって来た。

こんな奥深くに、誰だろう。そう思って姿勢を低くしたのだけど、それをクラトスが無言で諫めてくる。



「しいな。お前だったか…」



姿を現したのは、不思議な服を着た女性だった。クラトスがしいなと呼んだその人は、クラトスを見たとたんホッとした顔になる。……どうやら、知り合いのようだった。



「クラトスだったのかい!久しぶりだねぇ。あいつを始末してくれて助かったよ」

「助かった?アイツって、里の門番じゃなかったの?」



こんな所でクラトスの知り合いに会ったんだから、てっきり里の人かと思っていたんだけど……何故、“助かった”んだろう。門番を倒されて、むしろ困っているかと思ったのに。

私のその質問に、しいなは困ったように笑った。そうなる予定だったんだけど、と頭をかく。



「あんた達が倒したのは、あたしが“光気丹術”で作ったものなんだ」

「ふんふん、光気丹術っていうのね!ワクワクしちゃう〜☆」



やっぱりハイテンションでワクワクしている我らが天才。それに不思議そうな顔をするしいなと、気にするな、と小さな声で諦めの声をあげるクラトス。私とマルタは特に何も言わず、成り行きを見守っていた。



「扱いきれなくて暴走しちまってさー…。もしあれが外に出たら大変だったよ。ありがとう。……ところで、何の用だったんだい?」



安堵の表情を浮かべながら、そういえば聞いてなかったと首を傾げるしいな。それにクラトスは、落ち着き払った様子で要件を伝える。



「精霊と話がしたい。会わせてはくれないか?」

「ミブナの里の精霊にかい?」



黙って頷くクラトスに、しいなはまた困った顔になった。何でも、星晶採掘が原因でミブナの里の精霊は姿を消してしまったのだという。

話によると、例のウリズン帝国やそれ以外の国々が、里近辺の星晶を取り尽くしてしまったらしい。そして、その手が里内部まで届くのも時間の問題だろう……。そう考えたしいなが、帝国の連中が里に入れないようさっきの石像の魔物を作ったんだとか。



「んー、とりあえず、精霊への接触はムリって事ね。どうする?引き返す?」

「そうだな」

「えー?じゃあコレって全部無駄足じゃない!!」

「そうだね……あー、姉さんに何て報告しよう…」



みんながみんな、怒ったり落ち込んだり無表情だったりしながら歩き出す。しかし、そんな私達に後ろから声がかかった。



「待ちなよ!……クラトスが精霊を頼るって事は、余程の事なんだね。ミブナの里に精霊はいないけど、他の地域にいる精霊についてだったら、何かわかるかもしれないよ」

「あら、いいわね〜!」

「里に文献があるんだ。後であんた達のギルドに届けにいくよ」



しいなの提案に、ハロルドが目を輝かせた。そして私とマルタもガッツポーズをし、あのクラトスでさえも薄く微笑む。



「わかった。では、それを待つとしよう」

「ああ、待ってておくれよ!」









収穫なしかと思ったけれど、なんとか首の皮一枚で繋がって。ひとまずは、しいながアドリビトムを訪ねてくれるのを待つことになった。








隠された里





(精霊…か、)
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