創造への軌跡book

□一寸の虫、侮る事無かれ
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「よ、っと」



ストンと地面に着地し、膝をつく。でも砂漠の砂が鬱陶しくて、休憩もそこそこにまた立ち上がった。

すぐ近くで座り込んでいるキールに近付けば、何も言わずに回復術をかけてくれて。グラグラした視界が元に戻ったから、多分毒針をもろにくらっていたんだろう。

私は急な視界の変化について行けなくて、キールの足につまずいて覆い被さってしまう。するとちょうど目の前には、さっき付いたであろう切り傷。こちらは毒の影響はないようだった。


深く考えずに、その傷に手を近付ける。そうすれば以前感じた感覚に似た―――しかし幾分も負担の小さい痛みがやってくる。この間は目を瞑ってしまったけれど、みんなに聞いた通り確かに自分の体から光が出ていて。あ、術を使っているんだ、なんて今更思った。



「……うし、こんなトコ?」



キールの傷口が見えなくなったのを確認して、手を離す。これで回復出来たんだよね、と聞けば、キールは曖昧に頷いた。



「キール、どうかした?」

「………こんな術式は見たことがない。いやそもそも、コレは術か…?……お前、ブレスレットは使ったか?」

「うーん…?たぶん使ってない、かな?」



ブレスレットの存在を完全に忘れていた。忘れていても回復出来たって事は、たぶん使ってないんだと思う。

私がそう応えると、キールはまた難しそうな顔をした。やはり誰も知らない術式を、私は編み出しているのだろうか?



「まあいいじゃん、回復出来たし。いずれ秘密はわかるでしょ。……ね、ティトレイ?」



わからないことで悩んでも仕方がない。ティトレイが教えてくれた楽観論を言えば、キールは嫌な顔をし、逆にティトレイはニカッと笑った。

そういえば私、昔誰かに似たような事を言った気がする。自分の事になるといっぱいいっぱいになって、忘れていたんだな。





「……んで?いつまで引っ付いてンだぁお二人さんよォ?」



ニィ。

そんな効果音が聞こえそうな笑顔を向けるのは、改めて帽子を被りなおした変態不良貴族。その名に恥じないような、「さあどうやっていじってやろうか」みたいな顔をしている。

その表情を見た瞬間、キールが力いっぱい私を押し飛ばした。……と言っても、キールの力なんて可愛らしいモノだったけど。



「こ、これは不可抗力だッ!ただの事故であって、特にお前に言われるような事は……ッ!!」

「「おー、真っ赤」」



いやハモんなよ、なんて言われたけれど、このキールの顔を見れば誰でも言いたくなると思う。たとえ自分が当事者であったとしても。

その対応が気に入らなかったのか、キールは精一杯の睨みを向けてくるのだけど。とりあえず、そんなに赤面した顔じゃ迫力はない。



「だ、だいたいお前が慣れない事をするからこうなるんだ!お前が男を助けようとするか…ら……ッ、」

「うわ、勝手に悲しい想像しないでよ!違うって、女の子扱いなんてしてないから!」

『キール、すごいトラウマだったんだね』



私は必死になってその先の言葉を遮る。だって、みるみるうちに覇気がなくなっていくキールがなんだか可哀想になってきたから。

その横では、イマイチいじれる雰囲気じゃなくて困っているスパーダが、なぜ落ち込んでいるのかティトレイに尋ねていた。そしてキールの辛い過去(十中八九私のせいだけど)を聞き、同情の眼差しを向ける。



「違うってば!何か私が悪者みたいじゃん!」

「「いや、お前のせいだろ」」

『ボクもそう思うよ』

「純粋な善意だって!!」











わらわらと言い争いながら、バンエルティア号へと帰る。

今回の修行は私というよりもGの修行となった訳だけど。




でも確かに、実りのある1日だった。













一寸の虫、侮る事無かれ





(ごめんねメルディ、決して王子様をいじめた訳じゃないから!)

(大丈夫!キールは打たれて強くなるな!)

(打たれ強い、と言いたいのか…?)
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