創造への軌跡book
□一寸の虫、侮る事無かれ
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さぁ、と血の気が引いていく。
私はおそるおそる緑色に近付き、キールは真っ青な顔で蘇生術を展開させた。緑色より少し離れた場所には見慣れた帽子が落ちていて。
しかし、そこで気付く。
「ちょっと待ったキール!ストップ!」
どん、と体当たりをして術の発動を阻止する。すると信じられないといった表情でキールが私を睨んだ。言葉もなく、ただ非難するように。
「待って待って!…よーく見て?コレ、不良貴族でも雑草頭でもなくて……」
キールの手を引き、揃ってゆっくりと覗き込む。そしてその正体がわかるのと同時に、竜巻が完全に消え去った場所から声がした。
「うおおお!?俺のナチュラルボサボサ頭が砂まみれじゃねぇか!?」
「ンだよ“ナチュラルボサボサ頭”ってよ……。って、ゲェ!帽子がねぇ!」
所々砂色になった2人は、無傷で元いた位置に立っていた。改めて緑色の物体を覗き込んでみると、ソレは傷だらけで横たわる2体のカクトゥスで。キールはその場に尻餅をつき、私は落ちていた帽子を拾って砂を払う。
サクサクと音を立て2人に近付けば、何事もなかったかのような顔をしていた。周囲には無数の魔物。立ち上がっているモノはいない。
「ほい不良、落とし物」
「お、悪ぃな。……てかお前、俺の名前まともに呼ぶ気ねぇだろ」
「そんなことないって相棒」
「……ま、ソレならいいけどよ」
普通、だ。本当に何もなかったようで。
どういうことなんだろう、と思っていると、Gが嬉しそうな声をあげた。
『マーキング、成功してたみたいだね』
「マーキング?」
『うん。前にウィルやルビアのを見てたんだ』
マーキング。術のテクニックかな?
とりあえず2人の無事がわかり、ほっと一息。そしてキールにマーキングの意味でも聞こうかな、と思って振り向いた。
ひゅん
駆け出す。
駆け出す。
足がもつれるかと思った。
これほどまでにこの足場を恨んだことはない。
「キール、伏せてッ!!」
「ッ、」
かすったようだ。でも致命傷ではない。
キールの様子を横目で伺いながら、しっかりと敵を見据える。
――先刻のカクトゥス。やはりキールの蘇生術が発動していたか。
二発目の毒針を発射しようと体制を仰け反らせるその瞬間。私は毒針が当たるのにも構わず、真正面から蹴り飛ばした。相討ちではない。明らかに私の与えたダメージの方が大きくて、ヤツは再び動かなくなったから。
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