創造への軌跡book

□砂埃は思い出の味
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「レツ。お前は回復術が使えないと言ったな?」



砂漠に入ってすぐ、突然キールが話しかけてきた。サクサク鳴る足元に気を取られていた私は少しだけ反応が遅れたけれど、使えない、とはっきり伝える。

それを聞いたキールは予想通りといった風に頷き、立ち止まった。私やスパーダ、ティトレイはその突然の行動についていけず、急いで足を止めなければならななかった。どうしたんだろう、なんて思ったけど、多分これが依頼に関係しているんだろう。



「お前の使った力―――生物変化現象を治した力は、ボクたちの知らない治癒術なのではないか。アンジュとそういう結論にたどり着いた。お前は元々は相当な権威を持つビショップで、ボクたちの知らない術式を編み出していたのだと仮定すると、一連の出来事も説明できるからな」

「ビショップか……。わからないけど、とりあえず今の私はその術式とやらは覚えてないよ?」

「おそらく忘れているだけだろう。実際二回も術を使っているんだ。必要に迫られれば、身体が条件反射のような形で反応しているんじゃないか?」



手にしている杖の宝石が反射したのか、キールが目を細めながら言う。この砂漠にキールの服装はなんともミスマッチで、白いローブもまた光を反射する。


ビショップ、か。どうにもしっくり来ないけど、確かにそれならば理解できるかもしれない。私は誰よりも早く生物変化現象を調査していて、その回復術を編み出していたのかも。と、いうことは…?

なんとなくティトレイの方へ視線を向けてみると、どうやら似たような事を考えていたようで。ニカリと笑い、嬉しそうに肩を組んでくる。



「ほらな、言った通りじゃねぇか!そんなに悩むほどの事でもないっぽいぜ?」

『もしかしたら、いろんな術を研究してたんじゃない?だから僕とも話ができる』



ギウギウくっ付いてくるティトレイと、パタパタと周囲を飛び回るG。2人はあの時私の泣き言を聞いていたから、励ましてくれているんだろう。……でもちょっと申し訳ないというか、すごく、恥ずかしい。



「……ッ、もう!暑苦しいからどいてよティトレイ!雑草頭がウザい!」

「ぅお!…はいはい、どきますよーっと。急に蹴んなよなー」

「Gも、あんまり飛び回ると体力消耗するよ。ほら、肩の上乗って」

『ふふ。ありがとう』



ティトレイは大袈裟に両手を挙げ、私の蹴りを避ける。Gもまた、笑いながら飛んで来る。なんだか生暖かい空気を感じて、この2人に下手な照れ隠しは通じないことがわかった。

……くそう、なかなか面倒な相手に弱みを握られたような気分だ。でも、私の事を心配してくれてるんだなって思うと、やっぱり嬉しい。けど、むずがゆい。



「……何かよくわかんねぇけど、元気そうじゃねぇか」

「ん?坊ちゃま、何か言った?」



私たちがじゃれているのを、少し離れた所で見ていたスパーダ。彼が何か呟いたような気がして振り返ると、何というか、目を細めているように見えた。



「何でもねぇ。…ってか、“坊ちゃま”は止めろ!」

「えー」

「えー、じゃねぇよ!」



スパーダは手を突き出し、喧嘩腰に言う。けれどその顔の奥に、ほんの少しだけ。ルカやイリアといる時に見せる兄貴らしさが見えた事に、私はしっかり気づいている。










「おいお前たち!魔物だぞ!レツ以外は戦闘体制につけ!」

「わかってらぁ!」「はいよっと!」



スパーダが剣を抜き、ティトレイが懐へ飛び込んで行く。それを見ながら、私とキールの修行が始まった。








砂埃は思い出の味





(お前はこれから、治癒術の修行をするぞ)

(術かぁ…)
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