創造への軌跡book
□前を見たい、昔は知らない
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何から話していいのかわからなくて、口を開けたり閉じたりする。そうしている間もティトレイは待っていてくれて、私は一つ深呼吸をした。
“意を決して”。そんな表現がしっくりくるくらい、口に出すのは難しかった。
「……その、何というか、さ。…今回の任務で、“自分が何なのか”って事を突き出された気分、というか…」
ポソポソと、小さく小出しにして話す。
ティトレイはまだ私の頭を抱え込んだままで、視線が合わないことがありがたかった。
「私は記憶喪失で、ルバーブ連山に浮かんでた。自分の事、何にも知らないなーっていうか……」
何て言えばいいんだろ、と呟く。
自分の中でも消化しきれてない気持ち。悩んでる、というか。
「悩めない、っていうか。…自分の知らない所で、あんな力が出てきてさ。ワケがわからなくて、でも、こうやって」
手を差し伸べる。それに応え、Gが手に乗ってくれた。
「Gの助けになれた。…この力に感謝したいよ。何も考えずに」
トントン、とティトレイの腕を叩く。
ゆっくりと、頭に乗っていた手が離される。
「……何なんだろ、コレ。私は“普通”じゃないのかな。“普通の人”なら、あんな事は出来ないんだよね?」
自分の手を見た。
よく見かける、“普通”の手だと思った。
でも、コレは。
「考えたらおかしいよ。なんで、あんな魔物だらけの場所に一人で居たの。しかも浮いてたらしいし。人間は浮く生き物じゃないよね?私、記憶喪失だから忘れてるのかな」
ジンとする。
この感覚は何?
「なんでGとも会話出来るんだろうね。私は楽しいけどさ、やっぱり“普通”じゃないんだろうね。……“普通”なら、生物変化現象を治せたり、しないよね」
ああ、おかしい。
おかしいんだよ。
笑えてくる。
「何でだろうね…。私は、みんなと同じ“人”だと思ってたのに。………どこが違うんだろう」
笑えてくる。
なのに、声には嗚咽が混じって。
「この涙も、…みんなとは違うのかな。……ココに来て、初めて泣いた気がする。何で泣くんだろ、泣いたって変わらないのに。何が変わるワケでもないのに」
グッと涙を拭う。それでも、止まることはない。
この液体はなんだろう。
これも“普通”じゃないんだろうか。
…だから考えたくなかったんだ。
いつものような私でいようと、頑張ってたのに。
シングやティトレイと馬鹿やって。
アンジュ姉さんやミントに呆れ顔されて。
メルディの所へ行ってはキールに嫌な顔されて、ユーリやセネルとクエストに行く。
そんな日に、戻りたかったんだよ。現実逃避でも何でもいいから、何も考えずに。ただの偶然でしょって笑って。
前を見たい、昔は知らない
(なかった事にしてしまえたら)