創造への軌跡book

□意識は闇へ、遠く、深く
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「ジョアンさんとミゲルさんは…?」




キョロキョロと辺りを見回し、2人を探すレツ。クレスが医務室に連れて行ったと教えてやると、そっか、と呟いた。

……今言うのは、あまり良くないかもしれない。もう少し落ち着いてからでもいいかもしれない。そう思ったが、やはり今言わなくてはいけない気もした。

イリアに目配せすると、アイツもまた複雑そうな顔で頷いた。




「……なぁ、レツ。疲れてるトコ悪ぃけどよ、研究室に来てくんねぇか」




ふっ、とレツの表情が読めなくなる。そしてレツは、まるで研究室に何があるかがわかっているかのように、静かに頷いた。



研究室の扉を開ける。ソコには、俺達が来るのを知っていたかのような顔をしたウィルとハロルド。まぁ、確かに知っていたんだが。

ゆっくりと、2人に近付く。そして、だんだんと2人の間にあるモノが見えてくる。俺とイリアが進む後ろにはレツ。静かに、ただ俺達について来て。





そして、“ソレ”を見せた。










「……G。」





ポツリと。呼びかけるように、確認するように。



ウィルとハロルドに囲まれた、少し大きな虫かご。その中には、レツがGと呼ぶ、「コクヨウ玉虫だったもの」が入っていた。



俺達がクエストに出る前、イリアが悲鳴を上げた時。俺達は、このコクヨウ玉虫の生物変化現象を見た。

羽は鉱物のように堅く、口もなければ目すらない。あの、ジョアンとミゲルといった人たちと同じ状態。それが突然、俺達の目の前で起こった。




「……2人は、これを隠してたんだね。Gの、生物変化現象」




虫かごに歩み寄りながら、レツは言った。きっと、どこか感づいていたんだろう。依頼を終えてからか、もしかしたら初めから。

コクヨウ玉虫は、じっとしていて動かない。初めは自身の変化に驚いたのか飛び回っていたものだが、しばらくするとパタリと動かなくなって。そして今、レツが来てもそれは変わらない。

俺達はウィルとハロルドに頼まれ、レツにこのことを隠した。生物変化現象の原因や詳細がわかるかもしれないこの状態。特にこのコクヨウ玉虫に思い入れの深かったレツがこの様子を見れば、もしかすると調査に支障があるかもしれない、という判断だった。

いや、実際にはソレは形だけだった。この状態を見れば、レツが悲しむだろうから。そう、誰もが感じた。




「……ハロルド、もうGの調査は終わったのかな」

「わかった事は少ないけど、一応ねー。“生物に必要な、決定的な部分が欠けている”。そんなモンしかわからなかったわ」

「今回のコクヨウ玉虫とモラード村の件。理屈などは不明だが、赤い煙が生物変化現象の原因であることは確かになった」




そっか、と呟きながらも、レツがコクヨウ玉虫から目を離すことはない。じっと、何かを考え込むような表情。




「もし、」




イリアが、唐突に呟いた。




「もしアンタが、ホントにあの2人を治したんだったらさ。…ソイツだって、治せるんじゃない?」

「…………」




レツはグッと言葉に詰まったような、つらそうな顔をしている。本当にあれは自分の力だったのか。気になるが、確かめるのが怖い。そんな顔だった。





その時だった。

レツは急に顔を上げ、ゆっくりと目を瞑った。それはまるで、小さな小さな声に耳を傾けているかのように。そしてしばらくすると目を開き、悲しそうに笑う。

レツはふっと、思い出したかのようにコッチを向いた。ガッチリと目が合い、またコクヨウ玉虫を見つめる。そして、深い深い深呼吸をして。




キィ―――…ン




音ではない音が、聞こえた気がした。その時また、レツの体は宙に浮いていて。だんだんとレツが光に包まれていくにつれ、コクヨウ玉虫が元の姿を取り戻していく。そして一層強い光の後、それは収まった。

レツの足が、研究室の床に着く。……と同時に崩れそうになる体を、両手でしっかりと支えてやった。それを見たレツは、苦しそうな顔に無理やり笑顔を浮かべる。




「あ、りがとスパーダ。さすが…」

「ま、二回目だしな。…辛いなら、寝ていいぜ?ちゃんとベッドまで運んでやっから」




笑顔を浮かべようとするその顔は、今にも瞼が落ちてしまいそうな程に疲れきっていて。砂漠での時と合わせて、この力を使うには相当の体力がいる事がわかる。

レツが最後の力を振り絞り、なんとか俺の背中にもたれかかる。それに応え手を回そうとすると、それよりも早く寝息が聞こえ始めた。










意識は闇へ、遠く、深く




(どうして、)

(そう聞こえたのは、寝言か、或いは)
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