創造への軌跡book
□貴方の希望は
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「よし、ケージを開けよう」
サンドファングを始末した所で、改めてケージに近付く。ケージの中を見ないのが契約。でも、私たちは人を捨てる依頼は受けていない。
鍵を外し、ケージから離れると。
ズル…ズル……
「!?」
身を引きずるようにして中から現れたのは……人?
人型をした二体のソレは、所々が鉱物のような鎧に覆われていた。背中からは棘のような結晶が突き出し、顔面の半分はのっぺりとした石。しかし、一人のその残った半分には、見知った顔があった。
「あなたは、以前依頼に来たジョアンさん…?」
「は、はいぃ…!」
私たちの誰もが戸惑いを隠せない中、僅かだが関わりのあった私が話しかける。すると、自分であることに気づいてもらえたのが嬉しいのか、僅かに高い声が返ってきた。前が見えているのかわからない顔を、私の方に向けている。
「なぜそんな姿に…」
本当に、わからない。人になぜ、あのような鉱物がついているんだろう。クレスが悲しそうに、心配そうに聞くけれど、ジョアンさんは首を振るだけ。彼本人にも、理由がわからないらしい。
私とクレスが一歩前に出る中、イリアとスパーダはその場から動かなかった。そしてまた、何も言わない。気になって様子を見ると、揃って複雑そうな顔をしていて。なんとなくだけど、二人は同じようなモノに心当たりがあるように見えた。
「あの赤い煙に触れてから、病は治って村で過ごしていたんですが…。なぜかはわかりませんが、村の中にいる事がひどく居心地悪く感じる様になって…」
ジョアンさんが、必死に説明する。助けを求めるように、悲痛な声で。
「そうして、次に意識がハッキリした時には檻の中でした。私は、この異形の姿になって暴れていたらしいのです。彼、ミゲルもです」
赤い煙に病を治してもらった、ジョアンさんとミゲルさん。その二人が、こうして異形の姿をとっている…。
身体中を覆う鉱物。私はコレに、見覚えがある。確か、コンフェイト大森林の星晶採掘跡地だったか。
エステルの話から、森の生態系がおかしくなっている事を聞いて。
森の様子を実際に見て、ティトレイ達から、星晶が無くなってから変化があったことを聞いた。
一番原因として可能性の高い、星晶が枯渇した地を調べる事になって。
そして訪れたオルタータ火山の採掘跡地に、赤い煙が現れた。
その赤い煙と同じモノと思われる存在に、病を治してもらったジョアンさんとミゲルさん。
二人は揃って、原因不明の変化をしてしまった。
……これで、だいたいの確信は得られたんだ。
この二人の身に起こったのは、“生物変化現象”。
「もう、村には置いておけないと…。でも、確かに…俺の身体は、もう人とは違う様だ。人の中じゃ、生きていけないんだろうよ」
ミゲルさんの言葉が、力なく響く。自分には対応しきれない、異常現象だから。
自分には対応しきれない……本当に?
(助けて…)
また、どこかから声が聞こえた。
「ゲェッ!?」
「えっ……?」
「おいレツ、お前…」
みんなが驚いている。私をじっと見つめて、ポカンと口を開けて。その様子は、不思議と低い位置に見えた。
急に、身体中を何かが走った。
足の筋肉が収縮するような、下半身だけが地面についているような。お腹は何も無いかのように静かで、代わりに背中の筋が異常に張る。そして1つ、目の裏側に衝撃が来たかと思うと、ようやくそれらは収まった。
「う……」
グラリ、と身体が傾き、地面に足がつく。さすがに踏ん張る気力はなかったのだけど、すかさずスパーダが私の身体を支えてくれた。
何が起きたのかわからなかった。ただ、ゆっくりと焦点の合ってきた視界には、“正常”な景色が映し出される。
「人の…、元の姿に!!ああ、あなた方には助けられてばかりです!ありがとうございます!」
ジョアンさんは以前と同じ、人の姿をしている。そして横には、彼と同じく、人の姿をしたミゲルさん。
いつの間に変わったんだろう、という疑問。それは不思議となかった。
「レツ。君がやったのか!?」
「…………」
右手をぎゅっと握りしめる。何が起きたかわからない。だけど、私がやった。それだけは、なぜか確信を持って言える。
「黙ってたら、わかんないでしょ!」
苛立ったようにイリアが叫ぶ。ごめんね。そう言うと、目をそらして俯いてしまった。
ごめん。わからない。
私がやった。だけど、頭がぐちゃぐちゃなんだ。
「でも、このまま村には帰れねえぞ。帰っても、みんなにまたあの姿になると思われちまう」
ミゲルさんが、喜ぶジョアンさんを横目に複雑そうな顔をする。これからの生活、それが2人には見えてこないのだ。
「それじゃあ、僕達の船へ来て下さい。ここに留まるのは危険ですから」
「そうね。誰か、いい知恵出してくれるだろうし。船に戻りましょ」
安堵の表情を浮かべる2人。
一方で、私の意識は遠い所だった。
貴方の希望は
(私の絶望)