創造への軌跡book

□人と虫と不良貴族と
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「あら。お疲れ様、レツ。今日は長かったね」

「足がもげるかと思ったよ……」




フラフラになりながらも、17号室…ルカとイリアの部屋にたどり着いた。そこには、この部屋の住人であるルカとイリア。そして、アンジュ姉さんと例の不良がいた。

不良は私を見かけると、のんびりと近くまで歩いて来る。




「あァ?さっきの変なヤツか」

「ちょっ、スパーダったらもう!変なヤツじゃなくて、このギルドの仲間だよ!」




スパーダ、と呼ばれた不良は、私をじっと見つめてくる。ガンを飛ばしているのかな、とも思ったけど、たぶん違うと思った。よく見てみると、この不良はオーラが違うから。…なんだろ、どこかエステルに近い物を感じるというか?




「ふーん、そっか。ってか、ビビらすつもりはさらさら無かったんだけどな」

「うん、私も別に驚かないし。ま、姉さんに近づく悪漢だとは勘違いしたけどね。心配してくれてありがと、ルカ」




私が微笑むと、ルカはキョトンとしていた。てっきりルカは、私が不良を怖がると思ったようで。ごめんねルカ、不良にビビるほど可愛い性格じゃないんだよ、私。

その一方で、イリアはスパーダを指差して大爆笑していた。




「アンジュに近づく悪漢!ブブフッ!お似合いでございますわよ、変態スパーダさん?」

「はァ!?誰が……って、だからオレに虫飛ばしたり、蹴り入れたりしやがったのか!」

「いやー、早とちりだったね。この前怒られたばっかなのに。アハハ」




頭を掻きながら言うと、スパーダは呆れたように溜め息をついた。イリアはスパーダの発言にまた笑い、それをルカが宥めている。そしてアンジュ姉さんは、やっぱり楽しそうに様子を見ていた。

一通り笑ったり、怒鳴ったりしてから。改めて、自己紹介になる。




「オレはスパーダ。スパーダ・ベルフォルマ。こいつらのダチだ、よろしくな」

「レツだよ。こちらこそ、よろしく」

「うん、和解できたみたいね。…ところでスパーダ君。手紙にも書いておいたけど、情報は仕入れてきてくれた?」




姉さんが、ようやく話が進む、といった風に話し始める。どうやらメルディたちと同じように、スパーダにも情報収集を頼んでいたようで。だから私が呼ばれたんだなって思った。

スパーダは思い出したように話し出す。聞いた話では、スパーダは今までいろいろな場所を旅していたらしいから。だから、期待して情報を待った。




「あー、赤い煙ってヤツかぁ?アレ、割と知れ渡ってるみてぇだな。……そうだな。気になんのは、見る者によってその煙の姿が違うらしいって事だ」

「姿?煙とかモヤとか、そんな不定形な物でしょ?」

「うん。私が見たのは、確かに気体だったけど…」




ルカの疑問に、私も不思議に思う。私が見た赤い煙は、“姿”と表現するにはあまりに頼りない物だった。粒子とも言えないし……とにかく、捉えどころのないモノ。

スパーダは「お前、見たのか」なんて驚きながらも、話を続ける。




「ソイツの存在がわかった頃は、煙だったらしいな。けど今は、花や虫、魚、色んな姿で現れるらしいぜ」

「…進化してる、っていうのかしら」




あの煙が、いろいろな姿で。

確かにあの動きを見た者にとって、姿を変えるという現象は不思議でない気がした。まるで意志を持っているかのような動き。ソレが、進化している。




「それだけじゃねぇ。変わってんのは街の人もだ。…“病気を治す”から、いつの間にか“願いを叶える”って話になってんだぜ」

「願いを叶える?…それはもはや…。もっと“とんでもない”ものよ」




静かに聞いていた姉さんが、悲しみに満ちた声をあげる。教会の人間として、“願いを叶える”という言葉の重みが誰よりもわかるから。その恐ろしい言葉が、どんな事態を引き起こすのか……。想像するのは、難しくなかった。




「願いを叶える、か…。じゃあ、もっとたくさんの人が、その存在に会いたがるんだろうね」




ルカが、ポツリと呟いた。

赤い煙は、得体の知れないモノだから。何も知らないのに、簡単に近付いちゃダメだと思う。早く正体を探って、安全性を確かめないと……。

成り行きとはいえ、私は“赤い煙”関連の任務の責任者となったわけだから。焦らずに、それでいて早急に問題を解決しなくちゃならない。




「…………うし、また調査しますか。ありがと不良…じゃなかった、スパーダ!」

「おー。ま、これからオレも世話になるからよ。いつでも手伝うぜ」




パンッ


軽快な音を立てて、ハイタッチをした。あれ、私ってこんなノリだったっけ。なんかスパーダが相手だと自然に手が動いて、少しびっくりした。

でも、なかなか楽しいかも。









人と虫と不良貴族と




(あ、姉さんに近付いたら容赦なく攻撃するから)

(あ?ンだよそりゃ)

(私、女性の味方なの)

(………げ。)
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