創造への軌跡book

□奇跡の存在
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ブラウニー坑道の近くは、程よい気候で。私とルカ、エミルは甲板に出て、ぼんやりと海を眺めていた。




「…マルタ、大丈夫かなぁ……」




エミルがポツリと呟く。波音に消え入りそうな程の声だったけれど、私の耳にはハッキリと届いて。マルタに聞かせてあげたいな、なんて思った。




「エミルはいいなぁ…。マルタと仲が良くて」

「え?」




エミルの声はルカにも届いていたようで、ルカがどこか寂しそうに呟いた。それに驚いたように、エミルがルカの方を見る。




「それに比べて、僕とイリアは……」

「……また、喧嘩したの?」




エミルが心配そうにしている。ルカはその言葉に少しうつむき、ハッキリと頷いた。それを見たエミルは、まるで自分のことかのように悲しそうな顔をしている。

この2人は、故郷は違うけれどとても気が合うようで、よく一緒に話しているのを見かける。お互いに引っ込み思案な所があるから、一緒にいて落ち着くんだろう。




「どうしてイリアは、僕に辛く当たるんだろう?僕、本当は……、エミルとマルタみたいに……」

「ルカ……」




あああ、2人で落ち込みムードに入っちゃった。…まったく、イリアが素直にならないからこんな事になっちゃうんだよ。いつも言ってるのに、まだあの照れ隠しは治らないんだなぁ。ここは一つ、私の出番でしょ。




「大丈夫だよ、ルカ?本当に嫌いな人にはイリアは近付かないの、知ってるでしょ?構ってるって事は、ルカの事、嫌いじゃないんだよ」




本当は、「好きなんだよ」って言いたいけど。イリアに怒られちゃうから止めておこうと思う。今だってほら、甲板の入り口でイリアが立ってる。そろそろきっと、怒りながらやって来るんじゃないかな?

なんて、ほのぼのとした時を過ごしていると。


背筋をピンとし、晴れやかな笑顔で船に上がってきた人がいた。私を見かけると、軽く会釈をしてホールに入って行く。

……あれは、もしかして…?

後ろから歩いてくる人達を見て、推測が当たっていたことを知った。でも、4人は揃って複雑そうな顔をしていて。私も信じられなくて、眉間に皺を寄せた。




「本当にありがとうございました!」

「いえ。またお願いしますね」




満面の笑みを浮かべた男の人は、ジョアンさんだった。昔の面影などどこにもなく、まるで別人のようで。私と姉さんは、説明を求めるように4人を見る。

すると、やはり深刻そうな顔をしたティトレイが話し始めた。




「ブラウニー坑道の奥地に、赤い煙が現れやがった。それがジョアンさんの体に染み込んでって、気付いたらあの状態ってワケだ」

「赤い、煙…」




簡潔で、そして衝撃的な報告に、私たちは言葉を失う。4人も揃って静かな為、ホールには静寂が訪れた。

赤い煙。

予想外の単語。私たちが生物変化現象の原因じゃないかと推測している存在なだけに、とても気がかりだった。まだ関係性がハッキリしていないから何とも言えないけれど…病気は治ったとはいえ、どうもすっきりしない。




「護衛に関する依頼が殺到してるけど……もう、これに関する依頼は受けられないな」




姉さんがため息をつく。「病を治してくれる存在」は噂になっているようだけど、こんな得体の知れないモノに近付けさせられないから。依頼は嬉しいけれど、断るしかない。




「これから危ない仕事が増えそうだし、…もっと人を増やさないと駄目かも。アテがあるから、手紙を出してみましょう」




暗くなった空気を変える為、姉さんが明るく言う。それに私も微笑み、姉さんの言う「アテ」がどんな人なのかなぁと楽しみに思った。


わからないことだらけ、だけど。

私たちなら何とか出来る、そう信じた。










奇跡の存在



(そういえばティトレイ、リュック背負って戦ったの?)

(……正直、死ぬかと思ったぜ…)
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