創造への軌跡book

□愛の快針
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「……………」




なんだろう、このおっさん。

危ない匂い…というか、胡散臭い匂い?がプンプンする。おっさんは黒い髪を適当に結んでいて、よくわからないごちゃごちゃした服を着ていた。

返事をしようかしまいかと迷っていると、おっさんがまた話し出す。




「あらー。おっさん、そんなに怪しい?おっさんの魅力に胸がどきどき?」

「……………ぅわ。」




…本格的にウザい。

本当になんなんだろう、このおっさん。どうにも関わり合いたくない雰囲気だ。サレとはまた違った嫌悪感が込み上げてくる。

私があからさまに睨んでいると、おっさんの後ろからもう一人、背の高い女性が現れた。青い髪を上品に結い上げ、落ち着いた大人の笑みを浮かべている。




「あら、この人があなたの魅力をわかってくれる人だったらいいのだけれど」

「…ジュディスちゃん…」




私のだんまりは、おっさんへの呆れからお姉さんへの驚きへと意味が変わる。…すごく綺麗な人だ。一言声を聞いただけだけど、少し低めの声は落ち着いていて。私より背が高く抜群のプロポーションを、惜しげもなくさらけ出していた。

ポカン、とお姉さん―――ジュディスさん、と呼ばれていた―――に見とれていると。目があって、話しかけられた。




「私達、ここで働きたいの。リーダーはどちら?」

「…え?あ、ちょっと待ってて下さい。今呼んで来ます」




ちょうどアンジュ姉さんはカウンターを留守にしているようで、今いない。慌てて呼びに行こうと方向転換すると、まるで知っていたかのように見事なタイミングで現れた。

パタパタと駆け寄り、お客さんだと告げる。すると一言お礼を言って、2人の元へと歩み寄った。




「はい、わたしがこのギルド:アドリビトムのリーダー、アンジュです。何か御用でしょうか?」




姉さんお得意の営業スマイル。急なお客さんへの対応にも慣れたもので、にこやかにしていた。私はその横で、おとなしく話を聞く。ここで席を外すのも変だし、最初に話しかけられた人の責任というか……とりあえず、興味もあったから。

ジュディスさんは姉さんに気づくと、柔らかく微笑んだ。そして、おっさんも横に立ち、少し堅苦しい雰囲気になる。




「私はジュディス。そして彼が…」

「俺はレイヴン。ここにユーリのあんちゃんいるっしょ?俺達、あいつが元いたギルドの仲間なのよ」

「へぇ、ユーリの知り合いなんだ」




ジュディスさんとおっさんは、どうやらユーリの知り合いらしい。私が呟くと、ジュディスさんがにこやかに頷いてくれて。初めて出会うタイプのお姉さんに、少し照れてしまった。そんな私の様子に、アンジュ姉さんがくすりと笑う。




「エステルの依頼を受けたあとで、彼、指名手配になったでしょう?」

「そーそー、そのせいで俺達…」

「あ、それで少し面倒な事になってるんですね?だったら、ユーリ達と一緒にここで働きませんか?楽しいですよ!」

「あら?ちょっとお嬢さん、おっさんの話聞いてる?これってもしかして、ジュディスちゃんしか見てなかったり?」




ジュディスさんとおっさんの間に潜り込み、おっさんに背を向ける。そしてジュディスさんの手を握って勧誘した。ジュディスさんはとても嬉しそうに、私の話を聞いてくれて。もしかしたら、初めからそのつもりで此処を訪ねたのかもしれない。

念のためアンジュ姉さんの方を見ると、「もちろん大丈夫よ」と笑ってくれた。姉さんがメンバーを増やしたいのはわかっているから、こんな無茶が言える。むしろ誉められるくらいだし。




「それじゃあ、加入の手続きをするね」




姉さんがカウンターへと歩いて行く。それについて行きながら、気づけば遅くなっていた自己紹介をした。




「よろしくお願いしますね、ジュディスさん!あ、私レツって言います!」

「あら。こちらこそお願いするわね、レツ?」

「え?ちょっとレツちゃん、おっさんは?おっさんには言ってくれないのー?」

「あ、ジュディスさんそこ段差あります。足元気をつけて下さい」




爽やかにおっさんを無視しながら、ジュディスさんと歩く。後ろで鬱陶しい泣き声が聞こえたけれど、ジュディスさんが笑ってくれたから良しとした。







愛の快針





(ジュディスちゃーん、慰めてー?)

(ジュディスさんに触れるなッ!)

(ぐはッ!?レツちゃん、いいパンチね…)

(あらあら。楽しそうね、おじさま?)
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