創造への軌跡book

□赤く染まる
2ページ/2ページ




オルタータ火山の奥。しばらく進むと、小さな部屋のような場所に出た。中には片付け忘れたのか、いくつかの採掘道具が放置されていて。どうやらここから、星晶が採掘されていたようだった。




「キャッ!虫!?」




私より後に入って来たルビアが、悲鳴を上げる。採掘道具に気を取られていたけれど、部屋の中には何匹もの虫がいたようで。

それらの虫は、ほどほどの大きさで、黒い背。それを見た瞬間、私とウィルが同時に口を開いた。




「これは……!!」

「うわー、ゴキブリだ。こんな所でも育つんだ…」




間違いない。コイツはあれだ。女の子の多くが苦手とする、台所の悪魔。その悪魔が10匹弱死んでいて。一匹見つけると沢山見つけるって言うけど、これは多い。

…なんて考えていると。ウィルが無言で近づいて来て、




「この、大馬鹿者!!」

「いッ!?」




強烈なゲンコツが落とされた。




「これはここにしか生息しない貴重な生物、“コクヨウ玉虫”だぞ!!ゴキブリと一緒にするな!!」

「あだー…。殴る事ないじゃん……」




私にはどうやってもゴキブリにしか見えないコイツ等は、コクヨウ玉虫…とかいう珍しい種らしい。博物学者であるウィルは私に鉄槌をくらわした後、興奮したように見入っていた。

私とルビアはもう慣れっこだけど、チェスターにとっては異常事態だ。今まで冷静に、このパーティのリーダーシップをとってきたウィルが、こんなにも壊れてしまったんだから。

ポカンとしているチェスターに、そっとウィルのことを説明してあげると。リーダーといいお前といい、濃い奴が多いんだな、と言われてしまった。…思うんだけど、ウィルに比べたら私と姉さんなんて普通だと思う。


ゴキブリじゃないと分かり少し落ち着いたルビアが、そろそろとコクヨウ玉虫を覗き込む。




「こんな環境で虫が?……動かないわ。死んでる…?」

「コクヨウ玉虫は、この苔を食するのだが。こいつも枯れているな…。不安定な地熱のせいで枯れたのだろう」




ウィルは枯れてしまった植物を指し、残念そうに言う。珍しい種だと言っていたから、学者として思う所があるのかもしれない。これも星晶採掘が原因か、そうポツリともらした。

そのとき。





(助けて…)





「え…?」




どこかから声がした気がして、左右を見渡す。でも、私たち以外誰もいない。それどころか3人は、急にキョロキョロし始めた私を見、すごく不思議そうな顔をしていて。

空耳、かな。

もう一度聞こえないかと、意識を集中させる。しかし、何も聞こえない。




「ッ!?…おい!みんな離れろ!!」




チェスターが、突然叫んだ。その声にハッとし、周囲への警戒を強める。

すると、地面から染み出るように、不気味な気体が現れた。




「赤い煙……!?」




荒れ果てた地面の亀裂から、ジワジワと溢れ出て来る。恐ろしいほどに赤黒く染まったソレは、確かに“赤い煙”そのものだった。

発見することができた、と喜んでいる場合じゃない。赤い煙はある程度の大きさまで溜まると、まるで一つの生き物のように動き始めたのだ。あるものはフラフラと、またあるものは俊敏に。明らかに、普通の気体の動きじゃなかった。




「この煙の動きは…!」




まるで意志があるかのように動く気体に、私たちは動くことが出来なかった。そして一つの塊が、私の前までやって来る。至近距離まで近づいたかと思うと、ピタリと止まって。ジッと、その場に留まっている。





(―――――――)





また何か、聞こえた…?でも、今度は言葉になっていない。意味を持たない、ただの音。でも、なんだかジッと見つめられてるような、奇妙な感覚だった。


ヒュッ


その時、空気が動いた。




「おいレツ、何ボサッとしてんだ!危ねぇから離れろ!!」




チェスターが矢を放ったのだ。しかし、相手は気体。当然仕留めることなんて出来なくて、矢はむなしく空を切った。

形は変わらないものの、まるでその対応に怒ったかのように、赤い煙は黒さを増す。何か起こるか、と身構えたけれど、その塊はまた、地面へと染み込んでいった。

他の赤い煙たちも自由に動き回り、最終的に、虫の死骸や枯れた苔などに染み込んでいく。そしてこの小部屋に、静寂が降りた。しばらくして、ウィルが静かに話し出す。




「何だ、今のは…?あの赤い煙、まるで意志がある様に動いていた。…これは、単なる有害なガスなどでは無さそうだ」




言いながら、さっき煙が染み込んでいった苔や虫を調べ始める。すると、驚いたような声をあげて言った。




「む…?まだ生きている様だな。ならば、こいつを持って帰るか」




ルビアが嫌そうな顔をしたけれど、我慢して貰うことにした。本当に赤い煙が生物変化の原因なら、調べれば何かわかるだろうし。

コクヨウ玉虫はウィルが抱え、来た道を戻る。あまりにも異様な光景に、誰も何も言えなかった。










赤く染まる





(アレは、何……?)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ