創造への軌跡book
□早起きは3ガルドの得
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「ふんーーーんッ!っと!」
両手を目一杯上に押し上げ、大きく伸び。今日も元気にクエストだーなんて思いながら、食堂に向かう。私は基本的には早起きで、いつも朝ご飯を食べたらすぐにクエストを受ける。アンジュ姉さんも早起き奨励派だから、たまに朝ご飯の時間が被るくらいだし。だから、朝クエストっていうのも可能。
ご飯を食べて、また部屋に戻って、身だしなみを適当にしたらすぐ出発する。勢いよく扉を開けると、ゴツン、と鈍い音がした。……さっきまでいなかったのに、そこはセネルのベッドと化していて。ズルズルとシャーリィの元へ引き渡し、改めて出発。
…うん。いつも通り、実に清々しい朝だ!
まだパーティを組むには時間が早すぎるから、無難に納品クエストにしようかな、なんて考えていると。予想外にも、ホールに先客がいた。
「あれ?リッドにファラ、今日は早いね?」
別に2人が早起きじゃない訳じゃないけど、こんな時間に会ったのは初めてで。何かあるんだろうか。
「あ。おはよう、レツ!」
「よ。まぁ、ちょっとした出迎えみたいなモンだな」
「出迎え?」
誰かお得意様とかがいるんだろうか?でも今までで、そんな話はあまり聞いたことがない。だとすると、知り合いでも遊びに来るんだろうか。
私がいろいろと想像していると、甲板へと続くドアが開いた。入って来た2人は、リッドとファラを見つけると、すぐに歩み寄って来る。
……このバンエルティア号へ初めて入る人は、ほとんどがまずこの広さと豪華さに驚くのに。この2人はまったく驚く様子もなく、平然としている。ということは、一度でも来たことがあるのかもしれない。
「よう、キール、メルディ。長旅だったな」
「久しぶり!」
「はいな、久しぶり!」
「やれやれ。ここはいつ来ても、平和そうだな」
親しげに、4人は話す。どうやら友達か何かのようで、みんな久々の再会に嬉しそうな顔をしていた。
リッドとファラの知り合いであることがわかった2人は、1人は色素の薄いピンクの髪に褐色の肌、ふわふわのスカートを着た可愛い子。そしてもう1人は、青い髪を一つに束ね、質の良さそうなローブを着た綺麗な人だった。
1人ポカンとしている私に、ファラが慌てて説明する。
「レツ、紹介するね。わたしの友達の…」
「メルディだよう!」
「キール・ツァイベルだ。元々ボクとメルディも、このギルド発足時からのメンバーだ」
「あ、私はレツ。ちょっと前に、このギルドに拾われたの」
メルディは元気に手を挙げて挨拶してくれ、キールも比較的友好的に自己紹介してくれた。どうやらいい人そうで安心した。…まあ、リッドとファラの友達だから、そんなに心配はしてなかったけど。
2人の話によると、2人は今まで大学で勉強していたらしい。でも、戦争が始まりそうということで、大学は休校。行き場のなくなった2人は、仕方なくまたギルドに戻ってきたんだとか。
「ふうん……大変だったんだね。あ、メルディ。荷物貸して?持つよ」
「いいのか?でもコレ、とっても重いよ」
「任せて任せて!私、力仕事できるから置いて貰ってるんだから。それに、女の子には優しく、ってね。…ほら、キールも」
「え?」
メルディの荷物を受け取り、空いた方の手をキールに向ける。キールの荷物も重そうだから、運ぼうと思ったんだけど。キールはその手を怪訝な顔で見つめ、一向に荷物を渡そうとしない。
「だから、女の子には優しく、って」
「それは良い心掛けだと思うが……?」
何だか話が通じていない。私もキールも、お互いを不思議そうな顔で見ていると。リッドが、何か笑いをこらえたような顔で寄って来た。
「おい、レツ。まさかとは思うが、お前、勘違いしてないか?」
「勘違い?何が?」
何かおかしな事をしているだろうか。リッドは笑いをこらえてフルフルと震え、ファラは何かに気付いたように声をあげ、メルディはよく分からないみたいでニコニコしている。……何なんだろう?
…その時、キールは気付いてしまった。
「お、おい。…………念のために、…言っておくが、……………ボクは、男、だぞ……?」
「………………………………、え?」
トサリ、と2つの荷物が落ちる。
たっぷり3秒ほど沈黙が続き、瞬間、笑いと怒声の渦に巻き込まれた。
「おいおい、マジかよ!?レツが妙に男に優しいと思ったら………はははッ!!」
「わ、笑うなリッド!!」
「え、ウソ、信じらんない!ホントにキール、男!?その細さで!?その顔で!?詐欺だ!!」
「お前が勝手に勘違いしたんだろう!ボクは男だ!!」
「キールが髪、長いからな。仕方がないよ!」
「でも、ユーリは間違えなかったよね?…やっぱりキール、もっと筋肉つけなきゃ」
「ファラ!?ボクのせいだと言うのか!?言っておくが、女に間違われたのはこれが初めてだ!!」
「ん?そうだったか?…でもキール、この前、」
「メルディッ!!」
「あーーー有り得ないーッ!!男のくせに綺麗な顔しやがって!!絶対ウソだ、信じない!!」
「なっ!だからボクは男だ!!」
「なんなら確認すればいーじゃねぇか。ほら、」
「ッ!?放せリッド!!」
「お前の潔白を証明する為じゃねぇか。親切心だぜ?」
「面白がっているだろう!?」
「ぜーったいこのローブの下には、魅惑のバンッ・キュッ・バーンが眠ってるって、信じてる……!」
「おー、かもな。……ククッ」
「笑った、笑っただろリッド!?」
パン、パン。
混沌としたホールに、ハッキリと響き渡る。
「こーら。レツ、その辺で止めときなさい?」
「あ、アンジュ姉さん」
アンジュ姉さんの登場に、みんなが動きを止めた。私は姉さんの元へ駆け寄り、それと同時にキールは尻餅をつく。その髪はボサボサで、顔も真っ赤になっていた。
「長旅お疲れ様、キール君、メルディ。頼んでいた情報の方はどうなった?」
「この状況に対する疑問はないのか……!」
「久しぶりー、アンジュ!バッチリ調べて来たよー」
アンジュ姉さんは何のツッコミもせず、何事もなかったかのように笑う。それにキールはうなだれ、リッドやファラは笑った。なんとなく、この4人の関係が伺える気がする。
「ひとまず部屋に行こっか。キール君もお疲れみたいだし……ね?」
「あ、じゃあ荷物持つよ、荷物!」
「結構だ!!」
私もついて行こうとしたけれど、キールに全力で断られてしまった。しょうがないから、私はホールで置いてけぼり。跳ね上がっていたテンションが急に冷め、ふぅ、と息をつく。ちょっとはしゃぎすぎたかな?でも、楽しかったからいいか。
それにしても…キールにメルディ。また新しい、アドリビトムのメンバー。人が増えていくたびに、私の胸は不思議と安心感で満たされていくような気がする。なんでだろ、家族が増えていくからかな?言いようもない嬉しさが込み上げてくるんだ。
この喜びは、私は忘れちゃいけない気がする。ずっとずっと前から知ってる、ずっとずっと続いていく、大切な。
(……あ、まただ。)
私には、どうにもボーっとしてしまう癖があるようで。ブンブンと頭を振り、キチッと立ち直す。
そういえば日課の朝クエストが出来なかったなーなんて思いながら、行く所もなく自室に戻った。
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