創造への軌跡book

□早起きは3ガルドの得
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えーと、うん。

どこからツッコミを入れればいいんだろうか。




「ぅ………ん………」




なんだろうね、トキメキも何もないっていうかね。慣れって恐ろしい。なんか仕方ないかなって気になるよね。普通なら、驚くなり怒るなり赤面するなりするんだろうけどね。とりあえず、状況を説明するならば。


……セネルが、私のベッドで寝てるかな。


今日の寝相は一段と悪いみたいだなぁ。さっきシャーリィに引き渡したのに、どうやったら私の部屋まで来れるんだ。別に隣の部屋でもなく、ただ階が同じなだけなんだけど。




「セネルー?自分のベッド戻らないと、またシャーリィに怒られるよー?」

「………ん、……」




寝相が悪いだけじゃなく、なかなか起きない。普段はしっかりしているのに、何で睡眠に関してはだらしないんだろう?スタンやシングが相手なら叩き起こすけど、なんかセネル相手だと気が引ける。こんな事を言ったらシングに怒られるだろうけど、事実仕方がない。人徳の差だと思う。




「お兄ちゃん?起きて?」

「まだ眠いよ、シャーリィ……」

「セネル、起きんか」

「…………すぅ」




必死のモノマネも不発。いや、誰が起こしても意味がないのかな。とりあえず、どうしよう。

セネルは此方に顔を向けるようにして、横向に寝ている。しかも、しっかり布団をかぶって。まあ確かに今日は肌寒いけれど、それは服を着ていないセネルが悪いんじゃないかな。セネルはパジャマをしっかり着る派らしいけど、寝ている間に脱いだのか、廊下で見た時から上半身は裸だった。




(これ、シャーリィに見られても知らないよ…?)




私、というよりもセネルが大変な思いをしそうで、憐れみの眼差しを向ける。シャーリィ怒ったら怖いからなぁ…。しかも、セネルはシャーリィに頭が上がらないし。頑張れお兄ちゃん、とエールを送ってみる。


コンコンッ


ノックの音がした。ヤバい、シャーリィがセネルを探しに来たんだろうか。私はよくセネル探しの手伝いをしているから、たぶん協力の要請だ。

別に悪いことはしていないけれど、何だかよろしくない展開な気がする。どうしよう、居留守を使おうか?


でも、そんな悩みに意味はなかった。ノックした人物が、こちらの返事も聞かずにドアを開いたのだ。




「よーレツ!ウマいキノコスープ作ったんだが…」

「ティトレイ……それ、ノックの意味ないし」




バーンとドアを開いた人はティトレイで。ティトレイはベッドに眠るセネルを見た途端、フリーズした。

十分に石化状態を堪能した後、自力で復活する。そして、バッと私の方を見た。心なしか、顔が赤い気がする。




「レツ、お前……。その、なかなかやるな!」

「いや、何その空気読みましたみたいな気遣い。違うって、セネルの寝相だから」




ティトレイはしばらく考えた後、ああ!と納得する。アドリビトムではセネルの寝相は有名で、最近入った彼でさえ納得させる。……そりゃ、風呂場で寝たりホールのテーブルで寝てたりしたら、自然と有名になるよね。




「なーんだ、そういうことか!ちょっと焦っちまったぜ!」

「私もビックリしたよ…」

「でも、これってヤバいんじゃねぇのか?シャーリィに見られでもすりゃ…」




トントン。


控えめなノックの音がする。そして、ドアの奥から聞こえるのは。




『レツさん、ちょっといいですか?またお兄ちゃんがいなくて…』

「「!!」」




シャーリィ、だ。ティトレイと私は顔を見合わせ、ダラダラと汗を流す。いや、素直に説明すればいいだけなんだろうけど!でも、セネルが上半身裸でベッドで寝てて、それをシャーリィに報告せずにティトレイと2人で眺めてる……って、どんな状況に見えるんだろう。……おえ、なんか気分悪い。こんな事になるなら、さっさとシャーリィの所に行っていればよかった!




(どーするよティトレイ!あんたが来たせいで、余計話こじれそうじゃん!)

(俺のせいかよ!お前がさっさと知らせねぇのが悪いんだろ!?)

(驚いてた所に間髪入れずやって来たの!私だって衝撃でフリーズしたんだよ!)




シャーリィに聞こえないように、小さな声で言い合う。でもそんな言い争いは無意味で、事態は一向に良くならない。それどころか、悪い方へ転がるもので。




『……レツさん?入りますよ?』

((わーーーッ!!))




私たちは声にならない声を上げ、とっさに行動する。それはもう息のあった、完璧な動きだった。




「え、………ティトレイ、さん?」

「よ、よおシャーリィ。毎朝大変だなぁ!」




私たちはセネルを隠すように、2人並んでベッドに座る。幸いにもセネルは綺麗に布団をかぶっているから、布団の盛り上がりは勘弁してもらうとして、隠すのは頭だけ。2人の間から見えるといけないから、結構ピッタリとくっついていた。

そんな私たちを見て、シャーリィは顔を真っ赤にする。うそ、バレた!?シャーリィにはお兄ちゃんレーダーとかがあるんだろうか。




「いや、その、あのね?格闘家同士、たまには意見交換もって事で!そしたらセネルが」

「〜〜〜ご、ごめんなさいッ!!」

「寝ちゃって…って、あれ?」

「お、おい!シャーリィ!?」




シャーリィは深々と頭を下げ、出て行ってしまった。何も言われなかったってことは、セネルには気付かなかったんだろうか?




「無事……」

「乗り切った、か……?」




私とティトレイは顔を見合わせる。すると、後ろからもぞもぞと音がした。セネルがゴシゴシ目をこすり、此方を見ている。




「ん………。…お前達、朝っぱらから仲がいいんだな……」

「「はぁ!?」」




セネルはようやく起き上がり、欠伸をしている。それより、改めて見ると。私とティトレイとの距離は、ビックリするほど近かった。なるほど、どうしてシャーリィが謝ったのか納得がいった。きっと凄く失礼な勘違いをしたに違いない。

ティトレイは軽く顔を赤くしながら頭を掻いていて、私は深い深いため息をつく。全ての原因となったセネルは、未だ眠そうな顔をしていた。


……悲しいことに、これからしばらくアドリビトムはこの噂で持ちきりになって。その度に私は、ティトレイを思いっきり蹴飛ばすのだった。













早起きは3ガルドの得





(せめて、人のいない所でイチャついて欲しいな…)

(誰のせいだよ、誰の!!)
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