創造への軌跡book
□異形の森
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バンエルティア号につくと、いつものように姉さんが出迎えてくれた。お疲れ様、と労いの言葉をかけてくれ、少し嬉しくなる。でも今は、報告の方が先だから。2人と出会った経緯を伝え、ひとまずヴェイグの部屋へと移動することになった。
残念ながらヴェイグは不在で、ティトレイがあからさまにガッカリした顔をする。本人が不在なのに堂々と入ってしまうなんて、とも思ったけど、アンジュ姉さんの意志だから文句は言わないでおこう。それに、ヴェイグの仲間である2人なら、大丈夫だろうし。
落ち着いた所で、本命の話へと移る。“生物変化現象”を直に見ていた2人だから、きっと何か情報を得られるはず。生物変化現象は本当に星晶採掘が原因なのか、見極める必要があるから。
「ああいった生物の変化は、星晶採掘が終盤に差し掛かった頃から始まった。まず、土地が痩せ、畑からは作物が取れなくなっていった」
“星晶採掘が終盤に差し掛かった時”。それはエステルが言っていた、ガルバンゾ国で起こった変化と条件が同じだ。時期が同じということは、この現象には法則性があると言えるのかもしれない。
「あんな場所は、他にもある?」
「ああ、かなりあるぜ。……村近辺の星晶はゴッソリ盗っていかれたからな。星晶が原因と見るのが自然かもしれねぇ。それから、森の生物に奇妙な変化が現れてよ」
あの虫のようなモノだろう。アンジュ姉さんは実際に見ていないから、あまり想像できないようで。するとティトレイは、具体的に説明してくれた。その説明は、一例を知っている私にとっても衝撃的だった。
「ほとんどの作物は、食えないものになっちまって。狩る動物も同じだ。何て言やぁいい…、肉がねえんだよ。生き物って感じじゃねえ。仕留めた先から溶けていくものもあった。ちゃんとした獲物が取れた時は奇跡さ」
明らかにおかしい。肉のない動物なんて、存在できるんだろうか。“生き物としての当たり前”が、あまりにも欠如している。信じられないような話だけれど、ユージーンもティトレイも、とても嘘をついているようには見えなかった。
「元々星晶もなく、マナを生み出す世界樹の根もない土地というのはあるけれど…。でも、そんな土地で、マナが少ないから生き物に変化が現れたという現象は聞いたことがないわね」
「マナが少ない以外に、原因があるのかも」
ヘーゼル村には、世界樹の根はあまり張っていないらしい。だから今までは、星晶から僅かに出るマナで、細々と暮らして来たのだとか。しかしそれが、星晶採掘により、マナの恵みがほとんどない土地になってしまった。
今の情報で原因を探るなら、マナというよりも星晶の枯渇から、生物変化現象は起こっているのだろうか。でも、まだまだ情報は足りていないから、あくまで予想になってしまうけど。
「くそっ!…村のみんなは、どうやって生活していきゃあいいんだよっ!サレはいなくなったけど、もう村に物質もねぇ、採取もままならねぇ。もっと遠くに行って、探してくるしかねえのか……」
ティトレイは叫び、ユージーンは俯く。解決策のわからない問題に、私も辛い気持ちになった。どうすれば、ヘーゼル村の人たちに平和は訪れるのか。私には、分からなかった。
でも、姉さんは違った。何か考えでもあるようで、いつもの微笑みを浮かべている。国籍の無い自由なギルド・アドリビトムを動かすリーダーは、いつでも冷静に物事を見極める。
「じゃあ、ここで働かない?そんな話を聞いたら、ますます人手が必要になりそうだもの。ヴェイグ君が1人でしていた物質の援助も、3人でやれば、ヘーゼル村もいくらか安定すると思うな」
サレの脅威がなくなった今、ヘーゼル村に必要なのは物質。今まで内部で村を守ってきた2人も、物質の供給側に回ることが出来るだろう。内から村を守ることに慣れていた2人には驚きの発想だったみたいだけれど、確かにこれなら村を守ることが出来る。割と簡単に、2人のメンバー入りは決定した。
「よっしゃ!!そうと決まれば、よろしくな!ヴェイグの倍働いてやるぜ!!」
「ああ。よろしく頼む」
次々と新しい仲間が増えるのが嬉しくて。このアドリビトムみんなで、困っている人を助けに行く。まだまだ分からないこともあって、不安も多いけれど。
―――なんて、幸せな仕事なんだろうって、思った。
異形の森
(ユージーンは、カイウスと同じレイモーンの民なの?)
(いや、俺はガジュマという種族だ)