創造への軌跡book

□物事の本質
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エステルの案内で、星晶採掘地を目指しどんどん奥へと進んで行く。途中有り得ない大きさのオタオタ―――リッドはデカオタと呼んでいた―――に会ったけれど、それ以外は割と順調に進むことができた。

飛びかかって来たウルフを危なげなく斬り捨て、リッドが言う。





「なあ、やっぱわかんねえんだけど。そんな危ねえもんを、何でエステルの国は放っておくんだ?」





エステルの話によると、星晶を採掘し尽くした土地の生物は、今までとは全く別の生物になってしまったという。環境に適応するため一部だけを変化させる、という訳ではないらしく、まさしく“生物変化”現象らしい。それは決まって、星晶採掘が終わりに近付いた頃から始まり、この法則性は、既に3つの星晶採掘が生物変化現象を起こしたことから分かったのだという。

こんなにも危険なことが、既に3回も起こっているというのに。その疑問は、私も感じていた。





「…そうですね。では、少しお話をしましょうか」





フィリアが、優しい声音で話し始める。





「大きな国には、人が集まりますよね。大勢の人は生きていく為に産業を行っていますが、産業そのものを続けていくには、原動力となる資源が必要になります」





“産業”、“資源”。

アドリビトムで生活していると、あまり必要にならない言葉たち。でも、大国の人たちにとっては、命を繋ぐ重要なモノであるという。





「大国の資源といえば、今やほとんど星晶ですからね。採掘を止めて星晶が不足すれば、産業は滞り、多くの人が仕事を失います。そうすれば、衣食住に困る人が増えてしまいます」

「食い物なんて、森に行けばあるだろ。狩りをすればいいし、畑も作ればいいし」





私たちは、買うこともあるけれど、大抵の食料は自分たちで集めている。果物や肉、穀物は、この森に来ればほとんど得られるから。他にも沢山、食料を集めることが出来る場所はある。それなのに何故、あんなにも広大な土地を持っている大国が、衣食住に困るというのだろう。





「わたしの国は、産業施設や国民の住宅の為に森は切り開かれ、あまりありません。畑を開墾する土地もないでしょう。食料は、自給ではなく他国からの輸入に頼っています」

「え、」





知らなかった。アドリビトムにいるみんなは、小さな村や敗戦国の出身者ばかりだったから。大国の生活は、こんなにも異なっていたんだ。





「どうでしょう、リッドさん、レツさん。他国から食料を輸入する為の産業です。ガルバンゾ国は星晶の採掘を止める事は出来るでしょうか?」

「そうか。大国にも、止めるに止められない事情ってのがあるんだな」

「そう簡単に行く問題じゃないんだね…」





なんで星晶を採掘するのか。それが、なんとなく分かった気がする。大国には大国なりの事情があって、小国には小国なりの悩みがあって。今まで大国を悪だと思っていた私にとって、ハッとさせられる話だった。





「ですが、このまま目をつぶっておくわけにも行きません」

「もちろんです。さあ、では先を急ぎましょうか」





胸の中にモヤモヤした物は残ったけれど、だからと言って放っておいてはいけない。星晶採掘が引き起こす生物変化現象を、見過ごす訳にはいかないから。

前を向き直し、また進む。

それぞれの事情を越えた、物事の本質を見極める為に。












物事の本質






(あらゆる角度から、冷静に)
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