創造への軌跡book

□私に出来る事
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無事バンエルティア号にたどり着いた私たち。ひとまずエステルたちはミントに任せて、私はアンジュ姉さんの元へと報告に向かった。





「お疲れ様。ヘーゼル村の人たちに物質を届けられなくて、残念だったね」





ああ、アンジュ姉さんが悲しんでいる。悔しいな。私になら出来るって、そう思ってくれたから、姉さんは私をメンバーに入れてくれたのに。

期待を、裏切ってしまった。





「でも、仕方ないよ。サレがいたんだものね…。レツ、気を落としちゃ駄目よ?」





落ち込んでいる私に気を遣ってか、優しい言葉をかけてくれる。その表情は、聖女と呼ばれるに相応しい綺麗な微笑みなんだけど…。





「そう、サレ…。あの狂った変態さえこの世にいなければ、何もかもが上手く行ってたのになぁ…?今すぐに、パッと消えてしまえばいいのに…」





グローブをはめた手を、パンパンと打ち付ける。それはもう、偶然通りかかったロックスが縮こまるほどの殺気を放ちながら。……そういえば、前も同じような事があった気がするけど…きっと、ロックスの宿命だと思う。

一方、そんな私と真正面から話しているはずの姉さんは、穏やかに笑っていた。





「あらあら、元気そうで安心したわ。でも…そうね、人の好き嫌いはちょっと関心出来ないな」

「大丈夫、あれは人じゃない。汚物」

「なら仕方ないわね」





軽く笑いながら、アンジュ姉さんは言う。でも仕方がないよ。私、あのサレってやつが許せないし、個人的にも死ぬほど嫌いなんだから。

まぁ報告も終わったことだし、とりあえず私たちは、エステルたちと話をしてみることにした。ミントによると、食堂の隣の部屋にいるらしい。





「わたしはアンジュ。このギルド、アドリビトムのリーダーです。よかったら、あなた達の話を聞かせてもらえないかな」





初対面の人でも、アンジュ姉さんは常に落ち着いている。そしてそれは、例え王族であろうと例外でなかった。……やっぱり姉さんは凄いなって、改めて思う。





「申し遅れました。わたしは、ガルバンゾ国の王女エステリーゼ。エステルって呼んで下さい。……ええと、あなたの名はレツでしたね。その、助けていただいて、ありがとうございます」

「いえいえ。ちょうど私たちが通りかかった時でよかったよ」





エステルはアンジュ姉さんに深々と頭を下げ、私の方を向く。そして、ちょっとオドオドしながらお礼を言われた。……なんで?





「…あたしは、リタ・モルディオ」

「オレはユーリ・ローウェル。ガルバンゾ国のギルドの者だ。今はこのお姫様に、旅の護衛として雇われている」





ロン毛の青年はユーリ、ゴーグル美少女はリタっていうらしい。2人とも少し視線をズラしていて、まだまだ緊張感が取れていないって感じに見える。それだけ、エステルを守るのは大変なんだなって思って。アンジュ姉さんもそれを分かっているから、特に険悪なムードにはならなかった。





「あなたの様な大国の王族がなぜ、ギルドを雇って旅なんてしているの?」





もっともな質問だと思う。なんでお姫様が、護衛をギルドの者に任せているんだろう?それ以前に、なぜ旅をしようと思ったのか。不思議なことだらけだった。





「コンフェイト大森林には、ガルバンゾ国の星晶採掘地があるんです。現在ウリズン帝国と、その土地をめぐって緊張状態なのですが…。その採掘地で、変な現象が起こっているという話を聞いたんです」

「変な現象?」





私とアンジュ姉さんは、顔を見合わせる。すると、リタが詳しく説明してくれた。

なんでも、採掘が行われた土地の生物が変化しているらしい。どんな変化が起こっているのかは明確にわかっていないけど、採掘者の間でそんな話が上がってるらしくて。それで学者が、“土地にある星晶を取り過ぎたせいではないか”って仮説を立てて騒ぎ始めた。でも国は、ろくに調査もせず、世間を騒がせた罪で学者たちを逮捕してしまったらしい。





「その話を知って、わたし、本当の事が知りたくて。国が動かないのなら、まず自分で調査をしようと国を出たんです」





少し頬を上気させ、エステルは真剣に語る。でも、横でユーリが疲れたようにため息をついた。





「…そこまでは良かったんだが。森で迷うわ、あのサレって奴にエステルがさらわれるわでな」

「そういえば、ろくに食べてないって言ってたっけ。ホント、助けられてよかったよ…」





改めて、なんてタイミングが良かったんだろうと思う。少しでも上手く行っていなかったら、ユーリとリタはさまよい続け、エステルなんて帝国行きだったんだ。私は運命の恐ろしさを感じ、血の気が引いていくのを感じた。





「コンフェイト大森林の辺りは、様々な国が星晶採掘に関わっていますし…。早く、問題の採掘地へ急がないと…」





エステルが立ち上がろうとする。でも、それはアンジュ姉さんによって止められた。ユーリとリタも、呆れたようにエステルを見ている。





「焦っては駄目。まず、あなた達には休養が必要よ。わたし達も何か手伝えそうだから、今はゆっくりくつろいでいて?」





エステルは、少し残念そうにしていたけれど。ひとまずは、しばらくバンエルティア号にいて貰うことになった。




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