創造への軌跡book

□星の結晶
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「はい、確かに受け取りました。みんなご苦労様」





今日も危なげなく、クエストをこなす。まあ採掘の依頼だったから、なかなか危ないことなんて無いんだけれど。
今日はリッド・チャット・カノンノという新しいパーティを試してみたから、ちょっと気疲れはあったかもしれない。パーティ替えをする時って、やっぱり少し緊張するから。でもみんな凄く強いから、よっぽどバランスが崩れない限りやっぱり危なくないんだけどね。

報酬として貰った帽子をパコパコ被りながら、パーティを解散する。これからは自由時間、さて何をしようかな…なんて考えていると、ロックスがやって来た。





「お疲れ様です、皆様。ちょうどシナモンロールが焼けていますよ?よろしければ食堂まで……」

「おっ、マジで?ついてるなー!」

「さすがです、ロックスさん!それでこそ僕の部下!」





ロックスが言い終わる前に、2人は駆け出す。甘いものには目がない2人だから(リッドの場合は食べ物全般かな)、いつものことなんだけど。

「手を洗ってからですよ」なんてお母さんめいたことを言っているロックスの横で、私とカノンノは顔を見合わせた。そして、リッドとチャット、それからロックスに対しても全部混ぜ合わせて、笑った。

ひとしきり笑った後、改めてカノンノに向き直る。同じくらいのタイミングで、カノンノも笑うのを止めていた。





「それじゃ、私たちも行こっか。そこの可愛いお嬢さん、ちょっとお手を拝借」

「あはは、レツ。それじゃあ格好ついてないよ?」





もう一度笑いながら、手を繋いで食堂まで行く。するとそこには、嬉しそうにシナモンロールを頬張る2人とクレアがいた。

私たちよりも先に着いていたロックスが、手早く私たちの分を用意してくれる。それにお礼を言い、いただきますと言ってから口に含む。うん、おいしい。

隣では、カノンノがロックスのお行儀講座を受けていて。正面では、自分の分を食べ終えたリッドがチャットの分を狙い、喧嘩になっている。これがいつもの、バンエルティア号の食事風景。にぎやかで、笑顔溢れる素敵な時間。





「…あれ?クレア、顔色が悪いよ……?何かあった?」





そのはずなのに、クレアは一人、うかない顔をしていた。気になったから尋ねてみると、困ったように笑って。





「あら…ごめんなさい。少し考え事をしていたの。故郷の、…ヘーゼル村のことが気になってね」





ヘーゼル村。確か、クレアやヴェイグ、アニーの出身地だと言っていたかな。ウリズン帝国とかいう大国の領土侵略で、星晶の採掘を強要されているらしくて。そのヘーゼル村を守る為に、三人はアドリビトムにいる。

…星晶っていう物も、最初は分からなかったけどカノンノが教えてくれた。世界樹が生み出すエネルギーのような物で、マナとは違って産業などのエネルギー源になるんだって言ってた。詳しくは分からないけれど、星晶が採り尽くされた場所は作物が育たないほど荒れ果てるらしくて。だから私の頭では、大国が悪いというイメージが固定されている。





「ヘーゼル村を助ける為に、ヴェイグ様が頑張ってくれているではないですか。元気を出してください、クレア様」

「そうだよ。ヴェイグと、ヘーゼル村の人たちを信じてさ。それでもどうしても不安になったら、いつでも話聞くよ?」

「ありがとうロックスさん、レツ。…少し私、休憩してきますね」





クレアは自分を勇気づけるように笑い、食堂を出て行った。







…私にはクレアにとってのヘーゼル村みたいに、故郷とする所はないけれど。だからこそ、私の守るべき所はこの“アドリビトム”だと思ってる。

少しでも、みんなの手伝いができないだろうか。みんなのことも、みんなの故郷も守りたいなんて言ったら、おこがましいのかもしれないけれど。…私がここで働くことで、少しでも誰かを守れていたらいいな。





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