創造への軌跡book

□大きく息を吸って、
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-05:00-


「……坊ちゃま、寝てる?」

「…寝てる」

「なんだ、意外と早起きじゃん」

「……妙に目が冴えて、全然寝付けなかったンだよ…」



ぼへぇ…と天井を見つめる私たち。布団から出ることもせず、ただぼんやりとする。



「アンジュ姉さんの言ったこと、覚えてる?」

「……何か、一緒に行動しろ的なコトじゃなかったか?」



ひとまず冷静になって、自分たちがギルドマスターから下された指示(というより命令?)を思い出してみる。



「レツが働きすぎないように、俺が見張れ…」

「不良が好き勝手やらないように、私が見張れ…」



はぁ。
昨日から何度目かわからないため息。そして、2人同時に口から出るのは。



「何考えてンだァ?アンジュの奴…」

「何考えてるんだろう、姉さん…」



我らがマスターの言う事・考える事があまりに奇想天外で。各人自分に言い渡された事を要約してみるけれど、いまいちよくわからない。

スパーダは「うああぁ…」と唸りながら寝返りを打ち、こちら側に背を向ける。ついでに言うと、スパーダのベッドは私のベッドと平行になるよう配置された。私が入ってすぐの壁際だったから、ちょうど部屋の真ん中あたり。

……とりあえず、唸っていても仕方がない。さっさと着替えて、普段通りの生活をするだけ。そう考えて、パジャマのボタンに手をかけた時。



『レツ、レツ』

「んー?どしたのG。……あ、おはよう」

『おはよう……じゃなくてね?……レツの横で、スパーダのよからぬ行動』



私の横で、よからぬ行動。
Gはいつも私の机の上で眠るから、今の居場所は不良を挟んで反対側。自分のボタンと格闘しながら返事だけ返していると、Gが苦笑まじりの声で言ってきて。

第二ボタンまで開けた状態で横―――つまり、スパーダとGを見ると。布団にくるまって頭だけ出した不良貴族が、心なしか輝いているように見える瞳で私を見ていた。とてもとてもいい笑顔。



「あ、俺に構わず着替えていいぜ?」

『いいわけないでしょ。……レツ、アンジュの指示だよ。お灸を据えてあげないと』

「……そっか、相部屋って面倒だね。まぁとりあえず、初仕事、って事で?」

「ちょ、待て待て待て!!こりゃお前が勝手に着替え始めたンだぜェ?俺に罪はッふぎゃ」

「舌噛んでもしらないよ?」



慌てて布団から出ようとする不良貴族を布団ごと抑えつけ、その上に乗る。その勢いに肺が圧迫されたからか、一生懸命言い訳する声が間抜けに潰れた。

不良の顎の下に両手を持っていき、背をそらせるようにして引っ張ってやると。手足をばたつかせながら、くぐもる声で「ギブギブ」と必死に訴えてきた。










「……あー、ドメスティックバイオレンスの途中悪いけどよ、」



急に背後からかかる声。それに驚いた私が顎からパッと手を離すと、不良は勢いよく顎を打ちつけ戦闘不能状態になっていた。

呆れたようにGが飛んできて、スパーダに治癒術をかける。それを横目で伺いながら、私はスパーダの上から降りて訪問者の方を見た。



「なんだ、ティトレイか」

「なんだとはなんだ、失礼な奴だな!!……ってか、本当に部屋換えしたんだなー」



訪問者はティトレイだった。……まぁ、こんな朝早くからやって来るのはティトレイくらいなんだけど。

ティトレイは「ボタン閉めろよだらしない」とか言いながら部屋を見回し、狭くなったななんて笑う。私が着替えを持って立ち上がるのと同時くらいに、不良貴族が回復したようで。



「ンだァ?何でこんな朝っぱらからコイツの部屋に…」

「あ、今から更衣室行ってくるから。その後は朝ご飯作ってくる」

「は?お前今日、朝飯当番じゃねェだろ」

「毎朝ティトレイと一緒に手伝ってんの。朝強い組で」



お互いの行動を把握しろって事は、いちいち報告しなくちゃいけないということで。きちんと更衣室と厨房に行くことを伝えてから部屋を出た。
あ、私はスパーダの行動予定を聞いてないや。……でもたぶん「眠いからもう少し寝る」とかだろう。






「……毎日…でもティトレイもだろ?っつー事は、まだ許容範囲くらいか。…にしても、物好きな奴ら」



スパーダが指示を守ろうと色々考えていたみたいだけれど、その時の私は知らない。





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