創造への軌跡book

□それは突然の出来事
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「精霊に会えなかったのは残念だけど、まだ望みが絶たれたわけじゃないでしょ?しいなさんの来船を待ちましょ」



そうしてひとまずは目標達成となったあの任務。
………あれから、一週間近くが経とうとしていた―――










「セレーナ、頼まれていた物だ」

「いつもご苦労様です、リカルドさん」

「働かざるもの食うべからず。…俺の雇い主は厳しいからな」

「あら、そうでしょうか?」



じぃ…。


じいぃ………。



クエストカウンタで和やかに談笑する姉さん。その話し相手は、約一週間前にやって来た新しい仲間。



『もう……レツ?そんなに見てると、2人に穴が開いちゃうよ』

「………リカルドさん、かぁ」



ホールにある椅子に腰掛けお茶を飲みながら、ジッと2人の様子を見る。長い黒髪をサッパリとまとめ、これまた黒いコートで渋くキメた傭兵―――リカルド・ソルダート。



「ンだァ?もしかしてレツ、オッサンに惚れたかァ?ジーッと飽きずに見てよ」

「別にぃ………」



なんでだか一緒にお茶してたスパーダ・ベルフォルマ不良貴族が面白そうに話しかけてくるけれど、私の口から出るのは生返事ばかり。ソッチなんて見向きもせずに、ただ2人を眺めていた。

ンだよノリ悪ぃ、なんて呟きが聞こえたのと同じくらいに姉さんと目が合う。もともと隠れて見ていた訳じゃないけど、やっぱりなんだか気まずくて。パッと目をそらすと、クスリと一つ笑い声が聞こえた。



「レツ?心配してくれるのは嬉しいけれど……リカルドさんは、とても良い方よ?」


ガタリ。


私の考えをすべて読まれたような物言いに、思わず立ち上がる。机上のGと向かいのスパーダは驚いたように私を見、一方で面白そうに見る姉さんとリカルドさん。



「あ、いや、その……」

「お前の事は、セレーナからの手紙で聞いている。随分頼もしいボディガードが出来た、と」

「大丈夫よレツ、リカルドさんは仕事熱心な方だから。今までだって、私がお願いした仕事があったからアドリビトムに参加してなかったんだし。決して護衛の仕事を適当にしていた訳ではないのよ?」

「あ……はは、さすが姉さん」



……驚いた。見事に考えていた事が当てられてしまった。

確かに、私はリカルドさんにあまり良い印象を持っていなかったのだ。だって姉さんの護衛が仕事なら、アドリビトムにいるのが当たり前だと思うから。今までどこをほっつき歩いて、なんで今更姉さんのいるアドリビトムに来たんだろう。ずーっとそう考えていて、ずーっとリカルドさんの様子をうかがっていたのだ。



「フッ。お前はアドリビトムに拾われたと聞いたが、…まるで忠犬だな」

「……それは、誉め言葉でいいんですよね?」



意図が掴めず聞き返す。すると、リカルドさんが満足げに笑ったのが見えた。



「俺にとっては誉め言葉だ。契約は遵守するのが俺の信条でな、恩返しに生きるお前とさほど変わらんさ」



お前がアレを誉め言葉とするならば、安心だ。そう呟いたリカルドさん。

じっくりとその言葉を噛み締め、そしてまた、今までの会話を噛み締め。……私はスパーダ達のいるテーブルから離れ、リカルドさんの方へ歩み寄った。



ツカツカツカ。


まっすぐリカルドさんを見つめると、リカルドさんもまた、まっすぐ私を見つめてくる。それに私は少し微笑み、また表情を引き締めて。

勢いよく、腰から頭を下げた。



「疑って、すみませんでした」



私は頭を下げたまま。
後ろでは驚いたような声が2人分。前では少し動揺した空気が1人分。そして、にこやかに笑っているであろう空気が1人分あった。



「……頭を上げてくれ。謝罪される理由がない」



控えめにかけられるその声に、ゆっくりと頭を上げると。少し困惑した様子のリカルドさんが見えて、そんな顔もするんだなぁとこっそり笑った。



「いや、私の気が済まないんです。………改めまして、リカルドさん。私、レツと言います。これから宜しくお願いします」

「俺はリカルド・ソルダート、傭兵だ。……キミの信頼を裏切らないよう、セレーナは俺が命をかけて守ってみせよう」



にこりと笑うと、満更でもないような不思議な笑顔が返ってきて。姉さんの傭兵、リカルドさん。これから仲良くやっていけるような気がした。









「……ンだよ、このアンジュ親衛隊はよォ…。ついて行けねェ」

『今この時、アンジュを守る者たちの絆が深まった……とでも言っとこうかな』

「あら、私モテモテね?」



げっそりうなだれるスパーダに、どこか遠い目をしている(であろう)G。一方で守られる張本人はにこやかに笑いながら、ふと、何かを思い出したようで。



「それじゃあスパーダ君、レツ。あなた達に少し話があるんだけど、いいかな?」



突然、こう切り出した。




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