創造への軌跡book

□隠された里
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『あ、スパーダだ』



ふらふらと手持ち無沙汰で船内を歩く私とG。みんなはクエスト以外でも故郷の事や趣味の事なんかをやっているけど、私には特になくて。部屋にこもったり散歩したりしてみた結果、やっぱりクエストを受けようと思ってホールにやって来た。

すると、アンジュ姉さんのいるクエストカウンタには先客がいて。ここ最近よく行動を共にするようになった不良貴族―――もとい、スパーダ・ベルフォルマだった。



「姉さーん、何かクエストない?」

「あらレツ。仕事熱心で嬉しいな」



今日はこれで三回目のクエストになる。私にとってはもう暇つぶしに近いのだけれど、端から見たらとても仕事熱心に見えるようで。ギルドの最高責任者である姉さんは、ふわりと嬉しそうに笑った。

―――ああ、綺麗だな。

そう思った。周囲には女好きと呼ばれる私だけど、この笑顔を見て綺麗だと思わないほうがどうかしてると思う。姉さんが包み込むような笑顔を持っているのは、きっと教会関係者だからとかいう問題じゃない。


こんなにも綺麗な笑顔が自分に向けられているものだから、私の顔も思わず緩んでしまうというもので。ああ、私って幸せ者だな…ってつくづく感じる。すると頭上と横で、呆れたような笑いが起きた。



『レツは本当にアンジュが好きだね?すごく嬉しそうな顔してる』

「なーにニヤけてンだよお前。気色わり……でェッ!!」



バシンと、帽子が吹き飛ぶくらい勢い良くスパーダの頭をシバいてやる。自分だって姉さんと話しながらニヤけてたクセに、気色悪いなんて心外だ。

…最初も思った事だけれど、スパーダが姉さんを見る時の表情はどうも下心を感じる気がする。具体的には言えないけど…なんか、オーラが怪しい。コイツは自他共に認めるスケベだから、姉さんの為にも私が注意の目を光らせなきゃな、なんて改めて心に刻んだ。



「こーらレツ、すぐに手を出しちゃダメよ?よく考えた上で出さないと」

「はーい」



スパーダは頭をさすりながら帽子を拾う。「殴る事自体はいいのかよ…」なんてぼやきが聞こえたけど、気にしないことにした。




「あ。そういやお前、クエスト受けたいンだろ?俺の手伝えよ」

「そうね、レツもいてくれたら安心かな?」

「お坊ちゃまとクエスト?」



よく見れば、スパーダの手には依頼用紙。そしてその字は姉さんの筆跡に似ていて、姉さんからの依頼であることがわかる。

私の“坊ちゃま”呼びに懲りずに文句を言いながら、スパーダは依頼用紙をこちらに向けた。



「リカルド・ソルダート……傭兵…………人捜し?」

「おう。俺らの知り合いのオッサンなんだけどよ、到着が遅れてンだ」

「ふぅん……。うん、わかった。私も行…」



そう言いかけた所で、

ぽすり。

右肩に手が乗せられる。




「俺が行こう」




少し高めの、それでいて青年らしい声音が響く。

私たち(姉さんは気づいていたみたいだから、私とスパーダとGかな)が気づかないうちに背後に立っていたのは、髪色から服装まで純白の人―――セネル・クーリッジだった。

セネルは私の右肩に左手を添え、すぐ横に並ぶ。…まるで今まで横にいた、不良貴族を押しのけるようにして。



「え、セネル?いいよ、私が行くよ?」

「いや、俺が行く。その依頼、場所はカダイフ砂漠だろ?レツはつい最近にも行っていたようだし、今回は俺に任せてレツは休んでいてくれ」



セネルはいつになく真剣な表情で、ハッキリと言い切る。そしてアンジュ姉さんに申し出ると、姉さんも快く承諾した。でも。



「どうしたのセネル?別に心配しなくても、ちゃんと休憩ならとってるよ?」

「いや、そうじゃなくて……同行者に問題がある」



セネルはチラリとスパーダを見る。その眉間にはシワが寄っていて……つまりは、睨んだようだった。その顔を見たスパーダは、気に入らないというような顔をしながらもどこか後ろめたい事はあるようで。



「…ッだから、誤解だッつっただろ!?お前のタイミングが悪かったンだよ!!」

「どうだか。お前がルカ達の話に聞くようなヤツなら、誤解とも限らないだろ」

『……ああ、あの時の事で言い争ってるんだ』

「あの時?」



どうやらGには心当たりがあるようだけど、とりあえずあの2人は仲が悪いっぽい。何でだろう?スパーダはともかく、セネルは温厚そうな人なのに。



「カダイフ砂漠で人捜し、だったな。おい、さっさと行くぞ」

「ざッけんな!なんで野郎と2人で野郎を迎えに行かなきゃなんねェんだよ!!離せッ!!離しやがれェッ!!」

「じゃあな、レツ。ゆっくり休んでいてくれ」



ズルズルと不良を引きずりながら、セネルは出かけて行った。何だろう、私の知らないセネルの一部分に出会ったような…不思議な感覚。今度ウィルとかシャーリィ辺りに聞いてみようかな。


……。


…………。


それにしても、



「……クエスト、どうしようかな」



結局やることがなくなってしまった。












「…ならば共に来い。お前には、その義務がある」

「クラトス。…義務、って?」



研究室からクラトスとハロルド、そしてマルタが出て来た。すごく不思議な組み合わせだけど……今からクエストだろうか?



「アンジュ。今から精霊に会いに、ミブナの里へ行く。コイツを借りるぞ」

「精霊に会って、赤い煙についての話を聞こうってコト。人間の力だけじゃ限界なのよね〜」



何事もなかったかのように言う2人だけど、大変な内容の話を聞いている気がする。精霊に、会う?そんな事が出来るのだろうか。

そう思ったのは私だけじゃなかったようで、姉さんも驚いた顔をしていた。そしてじっくりクラトスの話を聞く限り、確かに現実的な話のようで。



「…そういう事なら、わかりました。調査を許可します。レツも、赤い煙についてしっかり調べてきてね?」

「了解」

「ミブナの里へ行くには、ブラウニー坑道を通るんだって。アーチェにソーサラーリング借りてこよ?」



マルタに連れられソーサラーリングを手にしながら、私たちはブラウニー坑道へと向かった。



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