創造への軌跡book
□砂埃は思い出の味
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「スパーダー、起きろー」
「ん、う、…………あ?」
ベシベシ、ベシベシ。
何度も頬を叩いてやると、やがてゆっくりと目を開け始めた。ゆらゆら揺れる視線が私の方へ向く。
「おはようございます」
「…ンだぁ?何でお前が俺らの部屋にいんだよ?」
「ドッキリ大成功……じゃなくて。まぁとりあえず起きてよ」
眠気眼をこすりながら起き上がったのは、つい先日アドリビトムのメンバーになったスパーダ。ルカ達のいる17号室の新たな一員だ。
ついでに、別に私は不法侵入したわけではない。横にはしっかりルームメイトのルカがいるし、許可をとってあるから。またまたついでに、現在時刻は朝8時。
『まだ寝てるなんて、だらしないなぁ』
「まったく、Gの言う通りだよ。ルカはちゃんと起きてるのにさ。坊ちゃまは、じいのモーニングコールがないと起きられないんですかー?」
「朝からうっせぇヤツだな………ってか、イリアだって寝てんじゃねぇか!」
イヤミたっぷりで言ってやれば、スパーダは眉間にシワを寄せて鬱陶しがる。つくづく“坊ちゃま”呼びが嫌いなようだから、今度からもっと言ってやろうと思った。
「イリアはいいんだよ、寝てても可愛いから。起こしたくないじゃん。……ね、ルカ?」
「ええぇ!?い、いや、まあ、…………か、可愛い、けど……」
イリアは私たちがこれだけ騒いでても、スピヨスピヨと寝息を立てている。いつも活発な彼女の瞳は、固く閉じられていて。睫長いなぁとか思いつつ、たまに「肉…」とか聞こえるのは気にしないことにした。現に、イリアに恋するルカ少年は、顔を真っ赤にしながらも幸せそうにイリアを見つめているし。
そんなイリアとルカを見て、呆れたように笑うスパーダ。そしてふと、大事な事を思い出したようで。
「で?何でお前は、わざわざ俺を起こしに来たんだよ?」
「あ、そうだったそうだった。スパーダ、私の依頼受けてよ」
「依頼だぁ?」
―――遡ること、15分ほど前。
「あたし、アーチェ。アーチェ・クライン。よろしくね」
いつもの日課(朝クエスト)をこなして、アンジュ姉さんとミントと話していた所に。サドル付きのほうきを持った女の子が現れた。
そしていきなり、自己紹介されて。
「レツです、よろしく…?」
『とりあえず挨拶返すんだね』
よくわからなかったけど、とりあえず挨拶をしてみた。すると、Gのツッコミと同じくらいのタイミングでミントが「アーチェさん、」と呟く。
どうやらミントの知り合いだったらしい。アーチェにはミントの方からアドリビトムに来てもらうよう頼んでいたようで、そしてまた、彼女もギルドのメンバーになるようだった。
「ミントが欲しがってたのって、これでしょ?ソーサラーリング」
キラリ。
光を反射して微かに輝いたソレは、指輪、のようだった。細かい字で何事かが書いてあるけれど、中央の石は何の色も宿していない。
……二人の話を聞く限り、どうやらこの指輪は不思議な力を持つようで。その力を使えば、未踏の地にも行けるかもしれないらしい。
しかし、今はまだただの指輪。不思議な力を引き出す為には、息吹を吹き込んでやらないといけない。
「世界中に散らばるリングスポット、か……。姉さん、依頼に出すの?」
ソーサラーリングをリングスポットへかざしてやると、力を吸収することができる。それが、アーチェのいた故郷に伝わる伝説なんだとか。でも、こんなにも簡単に持ち出していいのだろうか?
アーチェの行動に少しの疑問を持ちながら、あえて気にしないようにして、姉さんに話しかける。姉さんも気にしていないようで、私の問いににこりと微笑みながら頷いてくれた。
「あ、じゃあ私行くよ。丁度話も聞けたしさ」
「あら、嬉しいな。…でも困ったなぁ、レツには他に受けて貰いたい依頼があったんだけど…」
「私に?」
「ええ。私とキール君から」
困ったな、と言いながらも微笑んでいる姉さん。その笑顔には、“困惑”の“こ”の字も含まれていなくて。……これは、姉さんの方の依頼を優先してほしいって事なんだろうな。
基本的にアドリビトムは、仕事さえすれば自由に依頼を選ぶ事が出来る。逆に言うと、リーダーの姉さんは個人の依頼内容についてあまり強く言えないから。
「…じゃあ、姉さんの方を受けようかな」
「本当に?ふふ、ありがとう」
にこりと、あまりにも綺麗に笑う。いやいやあの空気じゃ断れないよ、なんて思ったけど口には出さない。さすが海千山千の教会関係者、といった所かな。
それにしても、姉さんはともかくキールからの依頼?あまり想像が出来なくて首を傾げていると、まるで見計らったかのようなタイミングでキールがやって来た。姉さんは嬉しそうに、私が依頼を受けたことを知らせる。
「そうか。なら、すぐ用意してくれ。……そうだな、他に前衛職の奴を2人連れて行くぞ。適当に集めて来い」
「そんないきなり命令しなくてもさー。まったく…前衛だね?了解」
「…という訳で、双剣士」
ピッとスパーダの方を指差す。頭上で『双剣士、って…。他に何か言い方なかったのかなぁ?』なんて声がしたけど気にしない。
指を差された張本人は、特に嫌な顔もせず帽子をクルクルと回していた。
「ふーん?ま、ヒマだからいいけどよ。結局何しに行くんだ?」
「さぁ…?」
「はァ?ンだそりゃ」
話の間に支度を済ませたスパーダを連れ、ホールへ向かう。そこにはキールと、既に誘っていたティトレイ。そして姉さんがいた。
それからバンエルティア号は、カダイフ砂漠へと到着する。キールと姉さんに促されるまま、ワケもわからず私たちは下船した。
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