創造への軌跡book

□前を見たい、昔は知らない
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はた。


急に意識が浮上する。何の前触れもなく、また倦怠感もなく。スッと気分の良い頭に違和感を感じ、逆に笑った。




『おはよう』

「…おはよう、G。って、おもいっきり夜みたいだけど」




私が起きたことに気付き、早速Gがお腹の上に乗ってくる。私はそれに応えながら時計を手に取り、時間を確認した。

……8時を少し過ぎたくらい、か。

朝からクエストに出て、確か帰って来たのがお昼前。でもあれからすぐ寝ちゃったから……何時間寝てたんだろう?とりあえず、




グゥオオウゥ……




『わっ、ビックリした…』

「ごめんごめん、私のお腹が吠えただけだから。……あー、お腹減って死ぬ」




私のお腹の音と振動に、Gが飛び上がる。だって、お腹が減ったんだよ…。

私が少し切ない気持ちになっていると、Gが扉の方へと飛んでいく。扉にはほんの少しの隙間があって、Gくらいなら簡単に通り抜けられそうだった。




「G?どこ行くの?」

『イリアとスパーダの所。レツが起きたら来いって』

「え、いいよいいよ。自分で行くから…」

『ダメ。ボクが帰ってくるまで、ちゃんと寝ててよ?』




ピョン、と勢い良く触角を立て、少し怒ったように言う。私がしぶしぶ頷くのを見ると、また触角を緩やかにして飛び去って行った。


シン…


静寂が降りる。いつもはもっと賑やかな船内が、今日は妙に静かだ。もしかしたら、みんな私に気を遣っているのだろうか?




(……それにしても)




“ボク”、か。

また一段と、Gの言葉が理解出来るようになった。これはもう触角で判断するとかいうレベルじゃなくて、本当に声が聞こえてくるようで。私はGの言葉を、耳で聞き取っているんだろうか?それとも、何か別の方法でもあるのか。

みんなは聞こえないという。私だけ、Gの言いたい事がわかる。……私だけ、なんだ。










「よーレツ!腹減ってねぇか?お粥作ってきたぜ!」

「ちょっとティトレイ!アンタ病人の前なんだから、考えなさいよ!」

「イ、イリア…声が大きいよ…」

「よっ!気分はどうだ?」

『ただいま』




ドタバタと、急に賑やかになる。土鍋のような物を持ったティトレイを先頭に、イリア、ルカ、スパーダ、そしてスパーダの帽子の上にG。どうやらそれなりに仲が良さそうで、無事に呼びに行くことが出来てよかった、と思った。

よっこいせ、と体を起き上げると、ルカが起きて大丈夫なのか、と心配そうに声をかけてくれる。でも実は、全くと言っていいほど疲れは残っていなくて。大丈夫だよ、と笑って答えた。




「ふーん、もう顔色もいいじゃない」

「うん、大丈夫。かなり眠ってスッキリしたかな」




にっこりと笑うイリアに、なんだか私も嬉しくなって。申し訳ないな、と思う反面、病人っていうのもなかなか悪くないなんて不謹慎な事を思った。

Gがスパーダの上から私の上へと移動する。みんなに伝えてくれてありがとうと言うと、どういたしまして、と嬉しそうな返事が返ってきた。


それぞれが適当な場所に陣取り、腰を下ろしたりなんなりする。ふっと落ち着いた雰囲気が流れたな、と思った時、もう一度扉が開いた。




「イリアにスパーダ、いるかい………あ、レツ!もう大丈夫なのかい?」

「クレス!うん、迷惑かけてごめんね」




控えめに、覗き込むようにして現れたクレスは、私が起きているのに気が付いた途端嬉しそうな顔をした。それがやっぱり嬉しくて、なんだかむずがゆい気もして。

迷惑なんて、とにっこり笑ってくれた後、クレスは少し言い出し辛そうな顔になる。




「その、アンジュがイリアとスパーダを呼んでいるんだ。…いい、かな?」




困ったような顔で、訪ねてきた要件を言う。おそらくクエストの事で何かあるんだろう。

それを聞いた2人は顔を見合わせ、こちらもまた困ったように笑った。そして立ち上がり、私の方を向く。




「まったく、アンジュもタイミング悪いのよねー。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

「来たばっかなのに、悪ぃな。また後から来るからよ、お前は飯食ってろ」

「ううん、コッチこそごめん。クエストの話でしょ?私も行こうか?」

「ばーか、横で腹鳴らされちゃ話になんねぇだろが。気にすんな」




う、その通りなのが悲しい。正直お腹の方は限界寸前で、さっきから何度も吠えている。

そうして、クレスが申し訳なさそうに2人を連れて行った。部屋に残ったのは、ルカにティトレイ、そして私たち。

微妙な沈黙。普通の人なら気にならない程度なんだけど、1人、耐えきれなかったようで。




「ぼっ、僕、アニーやナナリーたちにも知らせてくるね。みんな君のこと心配してたし…」

「え?う、うん」

「その、ティトレイ。レツの事をお願いね!」

「お、おい。ルカ?」




パタパタと、急ぎ足でルカは部屋を出て行った。そうして残ったのは、ティトレイ。さっきまで大勢だったのに、なんだか今日は人の出入りが激しいな、とぼんやり思った。




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