創造への軌跡book

□意識は闇へ、遠く、深く
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死んだように背中で眠るレツを見て、アンジュは顔を青くした。ただ眠っているだけだと伝えると、よかった、と呟いて笑う。

クレスが依頼の事、2人の事を話している間、ずっと俺は黙っていた。精神的に、あまりにハードな任務だったから。

モラード村の村長から出された、奇妙な依頼。それは、生物変化を起こしてしまった2人を、オアシスに追放する依頼だった。

およそ人間には有り得ない姿をした2人を、この目で見た。生物として有るべきモノが欠けている、異形の姿。そしてソレは、コイツによって正常へと戻された。



(ごめんね)



そう言って笑うアイツは、俺達よりも何倍も戸惑った顔をしていて。何も、聞けなかった。どうして、とか。どうやって、とか。

2人が正常へと戻される時、光が放たれたのを覚えている。急に黙り込んだレツが、目を閉じ、ふわりと浮き上がり。驚いて、じっと見つめた。温かな光が、体を包んだ。

アレは何だったのか。魔術か、それとも別の何かか。何にしろ、おそらく普通のソレではないことは分かる。




「…………ん、」

「あら、レツ。…お目覚めかしら?」




背中でレツが動くのを感じる。どうやら目が覚めたようで、一言告げてからゆっくりと下ろしてやる。すると、小さく礼を言いながらしっかりと立ち上がった。

寝起きだからなのか、その顔にはどこか覇気がない。




「ごめんなさい、姉さん。報告もしないで、寝ちゃって……」

「大丈夫よ、今回は肉体的にも精神的にもハードだったもの。お疲れ様」

「そーよ。それに、報告ならあたしらがやっといたわ。…今度何か奢りなさいよ?」

「イリア…。うん、ありがと」




イリアが気を利かせて、少しおどけて言う。それに気付いたのか微かに微笑んだが、やはりどこか下を向いていた。

俺はまだ、ココに来て日が浅い。しかし、ここ数日の出来事や、ルカ達の話を聞く限り。



(元気ねぇんだな…)



そう、単純にだが思った。

生物変化を直したあの光。その正体は、きっとコイツ自身でもわかってないんだ。

そういえば、コイツはカノンノに拾われて来たと聞いた。ルバーブ連山でたった一人、空に浮かんでいたと言う。それに加え、自分自身の事は何も覚えていなかったらしい。

正体不明の力、それが不安で仕方がないんだろう。自分は誰なのか、何なのか。今までも気にしていたことが、ここに来て急に大きな存在になっている。




―――しかし、俺達はコイツに告げなくちゃならない事がある。


おそらく、不安を加速させるであろう事。



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