創造への軌跡book

□人と虫と不良貴族と
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一階ホールにある、多目的テーブル。すごく大きくて、程よい低さ。私はソレに目をつけた。

頭を打たないよう注意しながらも、素早く潜り込む。そして息を潜めれば完璧だ。




(ふう……ウィルってばお堅いんだよ。いっつも狭い所にいたんじゃ辛いよね、G?)

『まったく』




小さな声で、左肩の存在へと話しかける。すると、Gの触角がピコピコ動いた。それはまるで、私の言葉に同意してくれているかのようで。最近は、なんとなくGの言いたい事がわかるようになった気がする。

ついでに今は、Gと一緒に遊んでいる所。私とGはよくこうやって遊ぶんだけど、ウィルはそれを良く思っていなくて。さっきも見つかって、怒られそうになった所をギリギリで逃げて来た。そして現在、絶賛逃亡中。



イスの隙間から少しだけ顔を出し、様子を探る。……よし、ウィルはいない。でも念のため、もうしばらくココに隠れていよう。

ゆっくりと体勢を変え、お腹にGを乗せる。ちょっと狭いけど、ココで遊ぼうかなぁなんて考えていると。Gの触角が、ピンと持ち上がった。




『誰か、』

(どしたの?…誰か、来る?)




体を捻り、周りが見やすいようにする。Gは足場が不安定になったから、私の頭へと飛んで移動した。そして改めて、2人でホールの様子を覗く。

すると、いかにもガラの悪そうな青年が入って来た。




(何、依頼者?……にしては、見ない顔だし。不良っぽいし…?)




青年は緑の髪に茶色の帽子をかぶっていて、いかにもチャラそうな印象だった。感覚が掴みにくいけど、おそらく背は高め。そして、物騒にも腰に二本の刀を提げている。

青年はバンエルティア号の広さに驚いた後、カウンターにいる姉さんに目を向ける。すると、とたんに嬉しそうな顔をして。ゆっくりと、姉さんの方へと歩いて行く。




(え、これって姉さんのピンチだよね、G?)

『…危ない』

(だよね。……じゃ、ちょっと行ってこようかなっと。Gはココで)




Gを頭から下ろし、テーブルの下から出ようとする。Gに危険な真似はさせられないし、Gの場合、下手をすると命に関わるから。でも、Gは黙って待っててはくれなかった。もう一度私の肩に乗り、しっかりと不良を見据えている。




(……G?)

『手伝う。奇襲、任せて』

(え…でも……。…いや、わかった。連携プレーで行こうか。無理はしないでね?)

『うん』




本当は心配だったけど、ああまで言われたら仕方がない。私がGを守る。それで大丈夫なはず。

私たちは簡単に作戦を決め、頷いた。そして、Gが音もなくホールを飛んでいく。その時すでに、不良は姉さんの元へとたどり着いていた。




「よお、アンジュ!久しぶりだな……って、あァ?」


ぺたり。


Gが、不良の額にへばりついた。不良は何が起きたかわからないようで、一瞬ポカンと口を開ける。額に虫がついたのだと気付くその瞬間、僅かな隙を狙って駆け出した。




「姉さんに近付くな、この不良ッ!!」




完璧な足払い。不良はバランスを崩し、地面に横たわる……筈だったのに。軽々とそれを避け、ストン、と着地した。

今度は私が、何が起きたのかわからなくなる番で。ポカンとしていると、不良はゆっくりと腕を動かし、Gを引き剥がした。それを見た私は、ハッと我に返る。




「Gを離してよ!痛がってるじゃない!」

『痛い』




Gは、バタバタと足をばたつかせる。それに私が抗議すると、不良が私を不思議そうに見つめてきた。そして、しばらくじっとしていた後、私の手に無言でGを乗せる。その目は思っていたよりも大きくて、少し私を戸惑わせた。


(この不良…Gに何もしなかった…?大抵の人は、Gを見た瞬間嫌がるのに)


私と不良が、お互いがお互いを不思議な物を見る目で見ていると。アンジュ姉さんが、面白そうに笑っていた。




「…おいアンジュ。何だ?コイツ」

「アンジュ姉さん、この不良は…?」

「あら、ごめんなさい。まだ紹介してなかったね」




ごめんなさい、と言いつつも、顔は楽しそうに笑っていて。何が面白いんだろう、とやっぱり?マークが頭を回る。

それより、“紹介”?って事は、まさか姉さんの知り合いだったのかな……?




『あ』

「え?どしたのG…………ッうが!」


ごちん。


頭に、覚えのある衝撃。目を涙ぐませながら振り返ると…やっぱり。




「……わー、こんちは。」

「……………。」




…ウィルだ。

忘れてた、今は逃亡中だったんだよね。

首根っこを掴まれ、ズルズルと連れて行かれる。たぶん研究室だろうな。そんで、お説教……はあ。正座イヤなんだけどなあ……。




「姉さーん、助けてよぉ…」

「終わったら、17号室に来てちょうだい?彼を紹介するから」

「はーい…」




姉さんは、助ける気なんてないようだった。その隣では、私を気の毒そうに見つめる不良。事情もわからないだろうに……雰囲気で、ヤバいってわかるんだろうな。




『頑張って』




Gが触角エールを送ってくれる中、私は長い長いお説教を貰いました。




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