創造への軌跡book
□愛の快針
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赤い煙の調査も無事終了し、バンエルティア号に戻る。具体的にわかった事というのはないけれど、ヒントとなる物は沢山あった。まだまだ、じっくりと調べていく必要があると思う。
「あら?レツじゃない。クエストお疲れ様」
「ありがとう、ルーティ」
フラフラと1階をさまよっていると、ルーティとスタンに会った。スタンが抱えている物を見る限り、これから採掘にでも行くのかもしれない。相変わらず夫婦っぽいなー、なんて言うと、ルーティに怒られるから言わないけど。
「これからクエストに出るの?」
「ああ。レツは何してるんだ?」
スタンが不思議そうに、首を傾げる。私の微妙に曲げられた腕が気になるのかな。教えてあげようと思って手を伸ばそうとすると、ルーティが何かに気付いたようにして後ずさった。そしてあたふたとスタンの後ろに隠れる。
「あ、あんた…もしかして、その手の中にあるのって…?」
「ルーティとは初対面だっけ。じゃあ、女の子は苦手かもしれないからね。遠目でご挨拶」
そう言いながら、ゆっくりと手を開く。私の手の中には、黒い塊。恐る恐る覗いていたルーティはゲッとした顔になり、スタンは興味深そうに覗き込んでいた。
「新しくアドリビトムのメンバーになりましたー、Gです」
手の中にいるのは、例の調査で持ち帰ったコクヨウ玉虫。私がそう説明すると、それに合わせるかのようにGの触角が動いた。
「うっわ、信じらんない!何でアンタ、ゴキブリなんて手に乗せてるわけ!?」
「へーえ、新しい仲間かぁ。宜しくな、G!」
「何アンタも受け入れてんのよ!」
バシッとルーティがスタンの背中を叩く。そして、「ルーティはゴキブリ平気じゃなかったっけ?」「退治するならいいけど、あんなまじまじと見るなんか無理!」なんて言い合いをしている。
ついでに言うと、私は今、Gにバンエルティア号を案内している所だ。まあ正確に言うなら、散歩と言った方がいいかもしれないけれど。
手にGを乗せて歩いていると、みんな驚くみたいだった。特にクィッキーなんかは怖がっちゃって、メルディが一生懸命なだめてたくらいだ。
Gが嫌な思いをしないだろうか、と思って話しかけてみる。すると、今度は元気いっぱい(に見える…?)な様子で触角を動かしてくれた。
「あー、レツ?今すぐクエストに行かなきゃいけないから、もう行くわ。じゃねッ!!」
「え?ルーティ?」
ルーティはかなり挙動不審になりながら、走り去って行く。それを慌ててスタンが追いかけて行き、2人ともいなくなってしまった。遠目でも駄目だったんだな、なんて思いながら、Gを見つめる。
そしてまた、散歩を始めようとした所。
頭に、覚えのある衝撃が走った。
「ぅがッ!!………ウィルー、暴力反対ー」
「自業自得だろうが」
あまりの痛さに、床に座り込んでしまう。とりあえずGを落とさないですんだけど、下手したら落としてたよ。Gの散歩に怒っておきながら、行動が矛盾してるよなーなんて、口に出さずに文句を言った。
「そのコクヨウ玉虫は弱っているのだ。あまり無理をさせるんじゃない」
「“コクヨウ玉虫”じゃなくて“G”だって。名前で呼ばないと」
私が抗議すると、ウィルはため息をついた。別に、私はふざけてる訳じゃない。“G”を“コクヨウ玉虫”って呼ぶってことは、“ウィル”を“人間”って呼ぶのと同じなのに。
ついでに言うと、“G”っていう名前は私がつけた。短くて覚えやすいし、G本人も気に入ってるみたいだったから。なんか格好良いよね、Gって響き。
ウィルはそっとGを持ち上げ、科学室へと戻って行く。あーあ、つまらない。独りきりになってしまった。これから何をしようか。
なんて、考えていると。
「おっ、そこのお嬢さん!アドリビトムってギルドは、ここで良かったのかな?」
…変なおっさんが、現れた。
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