創造への軌跡book

□やさしい兄貴
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「おっ。奇遇だねー、メルディ、キール」

「はいな!レツも今からお昼なのか?」

「そだね。ちょっと早いけど、人数多いから混んじゃうんだよね」




現在時刻、11時。私が食堂へと繋がる廊下で歩いていると、後ろからメルディとキールがやって来た。

お昼ご飯にはまだ早いけど、この大所帯じゃ仕方がない。なるべく時間をずらさないと、食堂が大変な事になってしまうから。朝の早い私は、お昼も早めに済ませることが多い。




「2人ももうお昼なんだ?初日から時間ずらすなんて、なかなか頭いいね」

「いや。今日は船に乗ったりで、朝早かったからな。その分ずれ込んだだけだ」




案内しながら、食堂の扉を開く。すると、いつものように慌ただしげなロックスが迎えてくれた。忙しそうだからロックスの紹介は軽く済ませ、ひとまず席へと移動する。




「はい2人とも、お水。こうやって自分で取りにいってね。ほい、クィッキーも」

「ありがとな!レツ、すごく気がきく!」

「クィッキー♪」

「いえいえ。私も初めて来た時は、ミントとかに教えて貰ったからね」




グラスに水をつぎ(クィッキーはお皿だけど)、差し出す。初めは何にも分からなかった私が、ここまで出来るようになったんだ。とてもとても小さなことだけど、少しだけミント達に近づけたかと思うと嬉しかった。

喉が渇いていたのか、嬉しそうに水を飲むメルディとクィッキー。でも、キールは複雑そうな顔でグラスを見つめている。




「キール?どうかした?」




私が尋ねると、キールはうっ、と眉をひそめた。そして、ゆっくりと顔を上げる。その表情から、なんとなく言いたいことが分かってしまった。




「……あー、別に深い意味ないよ?女の子には優しくするけど、だからといって男を差別するわけじゃないし…。その水だって、純粋な善意だからさ…?」

「……シングやティトレイに聞いた話から推測すると、お前は間違ってもこんな親切を男にするはずがないんだが」

「あ、あは……。考えすぎだって」




キールは1つ大きな溜め息をつき、水を口に含む。親切が迷惑な訳ではないみたいだけど、やっぱり男として複雑なようで。怒るというよりも、落ち込んでいた。

そんなキールを慰めながら、ご飯を食べていると。ふと思い出したように、メルディが切り出した。




「あ、思い出したよ!メルディたち、レツに知らせることあるな」

「あぁ、そういえばそうだったな」

「知らせること?」




メルディの言葉に、キールが顔を上げる。2人とも一旦食事を中断したから、私もひとまず食べるのを止めた。すると、クィッキーまでもが食べるのを止めて。メルディにキール、そしてクィッキーに見つめられる形になる。




「はいな、アンジュに頼まれたよ。レツはアドリビトムの大事な戦力だから、メルディたちが情報、伝えて欲しいらしいよ」

「お前は他の奴らと違って、比較的自由に動けるからな。アンジュも頼りにしてるんだろう」

「そうなの?ちょっと照れるな」




そう言うと、調子に乗るな、と眉をひそめられる。これは随分と嫌われたものだなぁ。男とはいえ、こんな綺麗な顔した人に嫌われるのは傷つくんだけど。

とりあえず、2人の情報とやらを聞いてみる。今まで、生物変化現象の調査にすべて参加している私だから、きっと全部知ってて欲しいんだろう。誰か1人でも状況を全て把握している人がいれば、アンジュ姉さんも心強いだろうし。

キールは二度目の大きな溜め息をつき、話し始めた。




「星晶の採掘跡地で起こる、生物変化現象。ボクが街で聞いたのは…生物に変化が現れた場所には、赤い煙のようなものが現れていたらしい。その後、生物への変化が見られたと言うが」

「赤い煙?」

「はいな。その赤い煙も、ほんの数日現れただけな。今は消えてしまってるそうだよう」




赤い煙。初めて聞く情報だ。2人の話からすると、赤い煙が現れてからあの森のような現象が起こる、という事だろうか。

星晶がなくなり、赤い煙が現れ、生物変化が起こる。これで、1つの流れが見えてきた訳だけど。だからといって、なぜ起こるのかは1つもわかっていない。




「赤い煙…。気になるね。何とかして調査出来ないかな?」

「オルタータ火山に行くといい。あそこは数日前、星晶の採掘を終えたらしいからな」

「アンジュには伝えてあるよ!きっと今ごろ、依頼の登録がされてるな」




了解、とも言い終わらない内に席を立つ。残っていた一切れのパンを口に放り込んで、お皿を下げて、ホールへと向かった。




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