創造への軌跡book

□異形の森
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エステルの言う、星晶採掘地跡にたどり着く。そこに広がっていたのは、まさしく“目を疑うような”光景だった。





「ここが、採掘跡地……?」

「なあ、何か…やばいんじゃないか?見てみろよ、周りの植物を。こんなもの見た事ねぇぞ」





緑色などどこにもない、陶器のような色をした植物が並ぶ。大地はひび割れ、踏みしめると、まるでコンクリートを踏んでいるかのような感覚だった。

――これは、本当に以前は土だったのか。足元でパキリと、不気味にしか思えない音がする。





「……一部、無機物化しています。もはや植物と呼んでいいのかわかりません。これらは一体…?」





“無機物化”と言われても、なかなかすぐには理解出来ない。すぐ近くで観察してみたかったけど、顔を近づける勇気はなかった。フィリアもエステルに、なるべく近づかないように注意している。


…その時、背後に人の気配を感じた。衝撃的な光景へのショックから、いつもよりいっそう敏感に反応してしまう。

しかしそこにいたのは、全く敵意など感じられない、落ち着いた面持ちの2人組だった。





「…お前たち、アドリビトムか」





長身の、獣のような外見をした人が話しかけてくる。不思議な人だけれど、もしかしたらカイウスのように、レイモーンの民なのかもしれない。

頭の隅でそんな事を考えながらも、突然「アドリビトムか」と聞かれて戸惑っていると。リッドが何かを思い出したように声を上げた。





「あ、前にヘーゼル村に物質を届けに行った時に会った…」

「ユージーン・ガラルドだ。アドリビトムには、ヴェイグ達の事も含め、いつも世話になっている」





どうやらヘーゼル村の人で、ヴェイグと知り合いらしい。私は気付かない内に姿勢を低くしていたようで、慌てて姿勢を戻した。

失礼な事をしてしまったと思い、ちらりと様子をうかがうと。ユージーンと一緒にいる人と目が合い、「気にするな」と笑顔を向けられた。人懐っこい、明るい笑顔。そして彼は、ユージーンに続いて自己紹介をする。





「おれはティトレイ・クロウ。ユージーンと同じく、ヘーゼル村の人間だ。あんたら、今日は何でここに来たんだ?」





そういえば、元々ここら一帯は、ヘーゼル村の管理地だったっけ。勝手に管理地に入っているから、事情聴取のような物だろうか。だからといって口調が刺々しい訳ではなく、むしろ友好的だ。これも、ヘーゼル村とアドリビトムが密接に関わってきた事の証明かもしれない。





「星晶採掘地跡で見られる奇妙な現象というのが、本当に起こっているのか。それを確かめに来ました」





依頼を届け出た責任者として、エステルが進んで前に出る。それを聞いたユージーンは、いかにも心当たりがあるといった風に応えた。





「……見ての有様だ。この採掘地から星晶が出尽くした頃からこうなった。元々ここは、薬草などが豊富に採れたのだが……今では何とも言えない妙な植物や、虫が増えている」





ブ……

奇妙な音を立て、虫のようなモノが目の前を通り過ぎる。





「星晶の採掘が原因だってのか?」





その虫を複雑そうな表情で見つめながら、ティトレイが言った。どうやら彼らも、この現象についての原因を調べているらしい。





「星晶との関連性は、まだ調べてる所。……でも、生物変化は実際に起こっている様だね」

「ああ……。おれ達も、このヤバイ現象をヴェイグに伝えようって、村を出たところだったんだ。アドリビトムに接触出来て、ちょうど良かったぜ」





ホッとしたように笑う2人。確かにアドリビトムは、いつでも拠点を動かしているギルドだから。依頼に慣れた人じゃないと、少し連絡が取りづらいのかもしれない。





「ですが、村にはサレが…。帝国の監視は、大丈夫だったのですか?」

「そうだよ。あのネバちっこい奴振り切るの、大変だったんじゃない?」





ヘーゼル村には、帝国の騎士・サレがいたはず。ヴェイグの話じゃ、仲間は強いと聞いていたけれど、それでもなかなか難しいだろう。





「盗るモン盗ったら、引き上げてったぜ!おかげでおれ達の村の星晶はスッカラカンだ」





吠えるようにティトレイが叫ぶ。勢いで周りの木を殴りつけようとするが、周囲に広がるのは得体の知れない木もどきのみ。行き場のない怒りを抑えるしかなく、あの笑顔を持つ人には似合わない、ため息をついた。





「まあまあ、ここで長話しても仕方ねえだろ。とにかく船に来てもらおうぜ。細かい話は帰ってからだな」





リッドの言葉に全員が頷く。案内のため3人が先頭を歩いていく中、私はあの奇妙な森をもう一度眺めた。


風が吹き、木のようなモノから葉のようなモノが落ちる。


それはあまりに自然な事で、酷く奇妙なことに見えた。異端に位置するものが、平然と普通をして見せる。あの虫だってそうだ。今思えば、全てが異常に見えてくる。


これは、本当に“生きる為”に必要なこと?

それとも、醜く滑稽な真似事?










「おーい!アンタ、置いてかれるぜー?」





遠くから、ティトレイの声がした。それにハッと我に帰り、慌てて追いかける。





「ありがとー、すぐ行く!…あと、レツでいいよ!」





奇妙な森は、いつまでも静かだった。





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